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大場大のブログ "セカンドオピニオン"

がん治療専門医による、あくまでも個人的な「つぶやき」ブログ

近藤誠氏の嘘を明かす⑤ -謎のがん再発・死亡の法則性-

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これは、近藤誠氏の思い込みによって描かれた「がん放置療法」による生存曲線イメージ図です。

なんと、近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来では、このイメージ図を見せながら、患者さんたちに「がん放置」を奨めているそうです。よく見ていただくと、具体的な対象は不明。時間のスケールもなく、放置によって生存率 100 %をパラレルに維持できている期間もどれほどなのか不明です。

 

固形がんで抗がん剤を標準治療とするのは間違いです。抗がん剤には患者を延命させる力はないのです。なぜそう言い切れるのか。抗がん剤の臨床試験結果が教えてくれます。臨床試験は、延命効果を確認する最終手段ですが、試験結果では、抗がん剤に延命効果は認められない。(『抗がん剤は効かない』2011年 文藝春秋より)

 

近藤氏は、「抗がん剤は効かない」とする根拠は、'ランダム化比較試験' の結果にあると説くわけですが、ほとんどが次の二つの理由に収斂され、それ以外について議論を深めようとはしません。

  • 生存曲線の形が奇妙
  • 利益相反

後者については、確かにそのような問題は完全には払しょくされないのかもしれません。しかしだからといって、すべての結果を捏造だ、陰謀だ、ということでは生産的な議論をすべて壊してしまいます。したがって、この問題については後日取り上げることにして、前者について本ブログでしっかり考察してみます。

 

「生存曲線の形が奇妙だ」

近藤氏によって、そう判定されてしまった途端、生存曲線データに人為的操作が加わっているものとして裁かれてしまいます。そしてこう結論付けます。その臨床試験は「インチキ」だと。その根拠はどこにあるのでしょうか。

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前提として、治らない患者たちの生存曲線は、図1-1のように漸減し、左下方に向かって凸形になることが重要です(この形を指数関数曲線という)。このルールに例外はなく (Cancer 1986; 57: 925)、もし指数関数曲線と違った形を示すなら、何らかの人為的操作が加わったと考えられます。(『抗がん剤は効かない』より)

 

「生存曲線が指数関数曲線になる理由は、被験者の死亡や再発には一定の法則性がある 」

この命題は、近藤誠理論の要となっています。上記参照にもある 1986 年の Cancer 論文(Harris JR, et al. Cancer 1986; 57: 925-928)が彼にとっての根拠だと明示されているのですが、それって本当なのでしょうか。その論文内容について吟味してみます。


先ず、留意しなくてはいけないのは、この Cancer 論文はあくまでも「仮説モデル」を用いて議論されていて、検証的な論文ではないということです。然るに近藤氏によって「例外はない」と強い口調で結論づけられている「生存曲線は指数関数曲線にならなくてはいけないルール」など、実はどこにも記述されていません。この時点ですでに客観性を失いつつあります。

さらにこの論文著者である Harris 先生の主張は、むしろ放置療法を提唱する者への警告にも受け取れる内容となっていることを先に申し上げておきます。

 

この論文に掲載されているグラフについて説明するとこうなります。

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かりに年毎25%の死亡発生リスク (ハザード) が変わらないと仮定した場合、言いかえると全時点を通じて死亡発生リスクが常に25%で一定であると仮定するならば、グラフAのように理想的な指数分布を示す生存曲線になりますよ、というあくまでも仮説レベルの話が示されています。

これの対数をとると、グラフBのような直線となり、一定の死亡発生リスク25%がその直線の「傾き」としてわかりやすくなります、という便宜的なモデルを置いているに過ぎません。

 

ところがなぜか、近藤氏はこの情報を盾にして「乳がん患者の死亡発生リスクは常に25%である」といつの間にか一般化してしまいます。とんでもない論理の飛躍です。

論文筆者である Harris 先生は、実際には次のように述べています。

 

このような理想的な生存曲線は、単純過ぎて、実際に治療を受けている多くのがん患者さんの生存パターンを示すものではないだろう。とくに、乳がん患者の自然史(経過)は、より複雑な生存パターンを示すはずだ。

 

がん治療を受けた患者集団を長期間追跡していくと、死亡発生リスクが時系列の中でしばしば変化する、ということをわかりやすく示すために、例として今から約100年前に遡る1920年代から70年代にかけてハルステッド手術を受けた当時の乳がん患者集団の古い長期追跡データが使用されています。

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死亡発生リスクを5年毎に抽出した上記グラフで筆者が強調したかったのは、手術後10年目を境にグラフ(実線)の傾きが変化しているという事実です。手術をしてから10年目までの死亡発生リスクが10%であったのに対し、10年目以降、傾きが緩やかになって 2-3%に落ち着いています。理由は、手術後10年までは、当時の手術による治療関連死亡や再発死するリスクが高い時期が続き、それがある程度落ち着いた後は真に治癒に向かっていく患者集団の低い死亡リスクをみているからでしょう。

 

この例が、たまたま乳がん手術データを用いた検討であったことから、近藤氏は「転移のために治らないがん患者集団」のみならず、「手術で治せる患者集団」の生存曲線に対しても、'素直な指数関数曲線' に近似した形になるのが前提だと、勝手にルール化しています。近藤氏が、「臓器を切り刻む犯罪的な手術」だと称してやまない昔のハルステッド手術の死亡発生リスクを自らのルール基準に置いてしまう理由がわかりません。

 

すでにハルステッド手術が行われていない現在においても、乳がん手術を受けた患者集団の生存曲線が昔の死亡パターン (約50~100年前) に近似されないといけない、と一般化してしまうのはいかがなものでしょうか。

しかも、乳がんだけの話にととまらず、胃がんや大腸がんの手術に対しても突然飛躍させて、このロジックを当てはめようとします。

ちなみに、この Cancer 論文が報告されてからすでに30年以上たった現在、治癒が目指せる乳がんについて、昔のハルステッド手術よりもより安全な手術実施のみならず、薬物療法の進歩によって、治療成績は大きく改善しています。

前述した Harris 先生のコメント通り、生存曲線はシンプルな形にはなりえず、死亡発生リスクも時系列によって変化することがわかっています。それを示すある論文データを紹介します。

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上図は、ドイツのグループによって行われた乳がんの臨床試験で得られた手術+ 抗がん剤治療の生存曲線です(HessKR. & Levin VA. Clin Cancer Res 2014; 20: 1404-1409)。しかしながら、近藤氏の要望するような指数関数曲線を描いてはいません。なぜならば、生物統計学者の分析によると、下図に示すように、時系列とともに死亡発生リスク(ハザード)比がたえず変化しているからです。Cancer 論文の仮説モデルのように、シンプルな一直線にはなっていないことがおわかりでしょう。これが、実際の現場の生データです。


Cancer 論文の話に戻ります。がん治療を受けた患者集団は、ある時点で死亡発生リスクが変化するということをふまえて、次の仮説グラフが論文の中で登場してきます。おそらく、これがもっとも重要な図だと考えられます。

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説明すると、という治療によって、3年目くらいの早い時点まではグラフの傾きが急に落ちていますが、それを越えると傾きは緩やかになっています。一方で、という治療は、最初は治療と比較して傾きは緩やかで死亡発生リスクは確かに低いようです。しかし、長期間の追跡で全体を俯瞰してみると、治療の方が、生存率で逆転して上に位置しています。

もしかりに、「治療 vs C治療」の比較がされたときに、評価が3年目くらいまでの早い時点で行われてしまうと、グラフが上に位置する治療の方に軍配は上がります。しかし、実際には患者に真の利益を与えているのは治療の方です。

早い時点に起きたリスクだけを切り取って治療を否定するやり方は意味がないと Harris 先生は論じています。そして、この治療にみられる現象は、手術のそれによく似ているとされています。この考察は一体何を意味するのでしょうか。


ここで、「がん放置療法」について、考えてみます。冒頭の近藤氏作図について、'放置' はリスクを恐れて何も施されないわけですから、最初のごく短い期間だけを切り取れば、本当にパラレルな直線になるかは別として、死亡発生リスクは、確かに治療のそれよりも瞬間的に低くなるケースはあるかもしれません。

しかし、長い期間にわたって耐えられるやり方なのでしょうか。本当に「低リスク高リターン」をパラレルに最後まで実現させてくれるのでしょうか。早い時期では見かけ上、リスクがなさそうにみえても、時間がたつにつれて、死亡発生リスクが一気に高まらないかと危惧します。

 

最後に、Cancer 論文は次の文章で締められています。

最初に訪れる死亡発生リスクを遅らせたり、軽減することを示すデータには、絶対的な(もっとも大切な)目標である患者さんの生存利益には意味をもたないだろう。まったく価値がないとは言わないまでも、患者の治癒を目指すこととは別である。翻って、治療することで最初に死亡リスクが存在するのは否めないが、長期的には多くのがんサバイバーを生み出すであろう。

 

近藤理論にとって重要な根拠のはずだった Cancer 論文の主旨は、実は近藤氏の恣意で解釈が勝手に曲げられていたことが判明しました。

さらに、論文著者である Harris 先生は、一時のリスクを避けるだけの「放置」に対する警告とも受け取れるようなメッセージまでも残しています。 結局すべては、近藤氏の単なる主観であったわけです。

冒頭に示した、近藤誠セカンド・オピニオン外来で使用されているグラフを Harris 先生が見られたら、さぞかし嘆かれることでしょう。これで、すべての客観性を失ってしまいました。

 

推察するに、手術や抗がん剤の効果を是が非でも認めたくない「立場」をとる近藤氏にとって、治療によって治癒する出来事や、死亡発生リスクが良い方向に変化することを肯定してしまうと、近藤誠理論が土台から成り立たなくなるからでしょう。しかし、それでは単なる 'エゴ' だということを申し上げて、本ブログを閉じたいと思います。

 

次回に続きます。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

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近藤誠氏の嘘を明かす④ -誇大なリスク強調-

現在、進行乳がんで闘病中の、歌舞伎役者 市川海老蔵さんの妻 小林麻央さんも受けていた パクリタキセル(商品名 タキソール)という抗がん剤があります。近藤誠氏のベストセラー本 『がん治療で殺されない七つの秘訣』(2013 年 文春新書) の中で、この薬剤の添付文書に記載されている情報を抜粋しながら、抗がん剤の危険性を誇大に煽る記述があるので、以下に紹介します。


パクリタキセル (タキソール) の重大な毒性
・ショック、アナフィラキシー様症状:呼吸困難、胸痛、低血圧、頻脈、発汗等が生じる・白血球減少等の骨髄抑制・末梢神経障害、麻痺・間質性肺炎、肺線維症・急性呼吸窮迫症候群(急速に進行する呼吸困難、低酸素症)・心筋梗塞、うっ血性心不全、心伝導障害、肺塞栓、血栓性静脈炎、脳卒中、肺水腫・難聴、耳鳴 ・消化管壊死、消化管穿孔、消化管出血、消化管損傷・重篤な腸炎・腸管閉塞、腸管麻痺 ・肝機能障害、黄疸・膵炎・急性腎不全・中毒性表皮壊死融解症(全身の皮膚が壊死して、ズルッと剥げてしまう)・播種性血管内凝固症候群(DIC)(全身の血が固まってしまい、多臓器不全になる)

このリストを眺めただけで、がんを治療しないでおくほうが、抗がん剤の毒性で死ぬよりラクに死ねる、という意味がおそらく理解できるでしょう。


では、おそらく読者の中にも痛み止めとして、あるいは解熱目的で使用されたことがあるかもしれません。鎮痛・抗炎症・解熱剤である ロキソプロフェン (商品名 ロキソニン)の添付文書をみてみると、そこにも重大な副作用が数多く列挙されています。

・ショック、アナフィラキシー様症状・無顆粒球症、溶血性貧血、白血球減少、血小板減少・中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)・急性腎不全、ネフローゼ症候群、間質性腎炎・うっ血性心不全 ・間質性肺炎・消化管出血 ・消化管穿孔・小腸・大腸の狭窄・閉塞・肝機能障害、黄疸・喘息発作・無菌性髄膜炎・横紋筋融解症・再生不良性貧血

私も時々、使用する薬ですが、ロキソニンの服用を薦められたときに、これらリスクを過度に恐れることで、ロキソニンの副作用で死ぬのは嫌だからと、発熱を我慢したり、痛みを我慢したりする思考は果たして健全だといえるでしょうか。

 

世の中にはゼロリスクが担保されている医療などありえません。当然、抗がん剤 タキソール は、上記の ロキソニン のような薬剤とは性質が明らかに異なり、何らかの副作用がそれなりの頻度で出現するのは事実でしょう。中には、予測できない重篤な副作用が起きてしまうかもしれません。それでも患者さんの目指す希望や目標、例えば「がんと上手に共存する」ことを希求する場合には、副作用で QOL が損なわれないように、副作用が重篤にならないように管理されながら、抗がん剤がもたらす主作用(ベネフィット) に期待します。そうしたリスクとベネフィットのバランスを天秤にかけながら、抗がん剤治療は行われます。

もちろん、抗がん剤ありきではなく、ベネフィットが得られにくそうな患者さん、リスクが問題になりそうな患者さんには抗がん剤は薦められません。良識ある専門医師は、常に「無治療」という選択肢も持ち合わせています。

然るに、抗がん剤の副作用は危険だぞ、怖いぞ、と誇大に恐怖を煽り、主作用までも頭ごなしに否定してしまうのでは、思考停止以外のなにものでもありません。

 

急性白血病や悪性リンパ腫など「血液がん」の多くは、抗がん剤が第一に選ばれるべき治療法で、標準治療といえます。(中略)固形がんの中でも、睾丸のがんと子宮絨毛がんだけは、抗がん剤に延命効果どころか治す力まである(理由は不明)。(『抗がん剤は効かない』2011年 文藝春秋より)

 

近藤氏は、肺がんや乳がん、大腸がんのような腫瘤(塊)をつくる固形がんに対しては、抗がん剤に延命させる力はないと言い切る一方で、血液がんや、一部の固形がんに対しては、抗がん剤が効く例外ケースを確かに認めています。しかし、これら疾患の治療で使用される抗がん剤の中には、通常の固形がんで使用される抗がん剤よりも重篤な副作用が起こり得る薬剤が選択されます。

悪性リンパ腫に対する三種類の抗がん剤シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンに副腎皮質ホルモンであるプレドニゾロンを組み合わせた CHOP(チョップ)療法や睾丸のがん(精巣腫瘍)に対する三種類の抗がん剤ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンを組み合わせた BEP(ベップ)療法もそれに相当するでしょう。

近藤氏が、固形がんに対する抗がん剤を「毒薬」扱いされるのであれば、そのロジックを、なぜ悪性リンパ腫や精巣腫瘍にも同様に当てはめようとしないのでしょうか。

 

最近、いわゆる '免疫療法' として何かと話題になっている免疫チェックポイント阻害薬 オプジーボという抗がん薬があります。 これについては、以下のサイトでも詳細を論じているのでよかったらご参照ください。

 

オプジーボは、患者さんにとって高いレベルのエビデンスに裏付けられた重要な治療オプションであることは間違いありません。ただし、投与された患者さん全員に効果が確実な薬ではないということにも留意しておくべきです。これまでの臨床試験の結果では、奏功する割合は20-30%程度であり、オプジーボの効果が事前に予測できないことも医療経済的には問題になっています。そして、メディアは相も変わらず、まるで奇蹟でも起こすかのような効果ばかりを強調していますが、元々備わっている免疫バランスを崩してリンパ球の攻撃機能を惹起させるので、健常な「自己」にもダメージを与えます。オプジーボは、抗がん剤とはまるで違った副作用が生じる '諸刃の剣' のような薬であることも知っておくべきです。

以下、オプジーボ添付文書より重大な副作用を抜粋してみます。
・間質性肺疾患・重症筋無力症、筋炎・大腸炎、重度の下痢・1型糖尿病(劇症1型糖尿病を含む)・肝機能障害、肝炎・甲状腺機能障害(甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、甲状腺炎など) ・神経障害(末梢性ニューロパチー、多発ニューロパチー、自己免疫性ニューロパチー、ギラン・バレー症候群、脱髄など)・腎障害(腎不全、尿細管間質性腎炎など)・副腎障害(副腎機能不全など)・脳炎・重度の皮膚障害(中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、多形紅斑など)・静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症など)・インフュージョン・リアクションなど


これまでに、死亡例も出るほどの重篤な副作用も報告されています。したがって、誰にでも気軽に扱える新薬ではありません。現状では、「抗がん剤治療に十分な知識・経験をもつ専門医師のもとで、緊急時に十分対応のできる医療施設で使用するよう」に警告されています。

しかし、近藤氏のロジックを当てはめると、こんなにも怖い副作用がたくさん並んでいるからオプジーボを使用すると殺される、ということになるのでしょうか。
案の定、最近の著作 『がん患者よ、近藤誠を疑え 』 (2016年 日本文芸社) の中には次のような記述がみられます。


(「夢の新薬」が引き起こす)免疫暴走が人体に対していかに恐ろしい状況をもたらすかは、免疫暴走によって発症する膠原病、重症糖尿病、間質性肺炎などの疾患を見れば一目瞭然です。「免疫抗体薬はがん細胞を選択的に攻撃する」などと宣伝されていますが、実際には、抗がん剤と同じく「ピンポイント爆撃」どころか「絨毯爆撃」なのです。

 

少し観点を変えてみます。近藤氏が元放射線科医であることから、三大治療である手術、抗がん剤治療、放射線治療の中でも唯一、放射線治療だけは肯定しています。手術や抗がん剤には多大なリスクがあるから近づいてはいけない、という主張を繰り返すのですが、当然ながら放射線治療にも副作用リスクは存在します。

リスクがあるから手術や抗がん剤は否定される、というロジックに従うのであれば、放射線治療に対しても同様な議論が必要になってきます。X線が照射される場所(臓器)、範囲、照射線量が副作用症状の強さに影響し、また時期によっても急性期(照射開始〜6ヶ月以内)副作用と 晩期(6ヶ月以降)副作用があります。
晩期でひとたび症状が出現すると重篤な状況に陥るリスクが高まります。以下に代表的な副作用を列挙してみると

 

  • 急性期では、頭痛、耳痛、脱毛、嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、倦怠感にみられる放射線宿酔、造血器障害 (白血球減少、血小板減少)、放射線皮膚炎、放射線粘膜炎(口内炎、咽頭炎、食道炎、腸粘膜炎)、急性浮腫(脳浮腫、声門浮腫)、放射線肺臓炎、膀胱炎、生殖能の変化など
  • 晩期では、難聴、顔面神経麻痺、脳機能障害、下垂体機能低下、白内障、網膜症などの視力障害(失明含む)、唾液腺障害、難治性皮膚潰瘍、消化管潰瘍、気管狭窄、食道狭窄、心筋障害(心不全)、肺線維症、末梢神経障害、関節炎、骨壊死、直腸炎、尿路障害、脊髄症、不妊、二次発がんなど


しかしながら、上記のような副作用リストを誇大に強調して、放射線治療を頭ごなしに否定する医師は私の周りにはいません。適切な放射線治療によって、多くの患者さんが利益を得ているのを実際に現場で診て知っているからです。

しかし中には、放射線治療の効果がまったくみられないケース、重篤な合併症が起きてしまうケースも少なくありません。中には不運にも死亡するケースもあるでしょう。ということは、放射線治療も手術や抗がん剤と同様に、リスクとベネフィットのバランスが考慮されながら慎重に実施されているわけです。

そして、副作用があるとはいえ、主作用のおかげで恩恵を得ている多くの患者さんがいる事実を決して無視してはなりません。

 

もし、近藤氏の推奨する 「がん放置療法」 というものによって、低リスクが一時的に約束されたとしても、リターンが大きいという話は一切してくれません。また、患者さんにとっての生活や人生を配慮したときに、本当に低リスクがずっと担保され続けるのか、あるいは、長期的にどのようなリターンが得られるのか、という話も一切聞こえてきません。

近藤言説のみならず、リスクだけをことさら大きく強調して「○○反対」とヒステリックに主張し、リスクがゼロでないと気がすまない 'ゼロリスク・シンドローム' というものがあります。このような思考停止と近藤言説がうまくシンクロ(共鳴)することで、いくら '嘘' であっても社会の中で容易に溶け込んでしまう病理も認識しておく必要があるのかもしれません。

 

最後に、以前『週刊朝日』(2013年 6月21日号) で近藤氏は次のように述べています。

僕が、がん研究に費やした時間は約10万時間。それだけの勉強量で、何万本という論文を読んでも、抗がん剤で人を救えたという報告はない。これは効かないと断定してもいいでしょう。

 

現在も闘病中の小林麻央さんもそうですが、がんと明るく向き合うために、がんと上手く共存するために、抗がん剤治療をいま現在、実際に受けている患者さんたちは、これを聞いてどう思われるでしょうか。中心と考えられるべきは、近藤氏の主観や勉強量のようなものではありません。いちばん大切なのは、がんを抱えている患者さんの主観です。救われていると実感する主役は、近藤氏ではなく患者さんのはずです。

 

次回に続きます。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

近藤誠氏の嘘を明かす③ -リード・タイム・バイアスの乱用-

近藤言説に決まって登場してくる ‘リード・タイム・バイアス’ 。このツールが本当に正しく使用されているのか、今回のブログで検討してみます。

 

現在、大腸がんに対する抗がん剤治療の進歩は目覚ましく、有効性の高い新規抗がん剤が数多く揃っています。そして何よりも、患者さん自身が抗がん剤の効果を実感している多くの現実 (リアル) が現場にあるわけです。ところが、近藤誠氏のベストセラー著作『抗がん剤は効かない』(2011年 文藝春秋)の中では次のように記述されています。

 

転移性大腸がんでは、無治療と比べた臨床試験は存在しないのですが、(以下中略)近年、専門家たちは「抗がん剤の進歩によって寿命が延びた」と主張しています。転移性大腸がんは、(生存期間)中央値が90年代に12カ月前後だったのが、その後の新薬導入に伴い、20カ月前後に延びているというのです。しかしこの主張は、重要な事実を無視しています。検査法が格段に進歩し、発見される転移病巣が、だんだん小さくなってきたという事実です。大腸がんでは、肝転移が一番肝心で、その帰趨が寿命を決めます。(中略)とすると、今日発見された肝転移は、治療しないで放置しても、昔発見された大きさに育つまでの期間分、長生きしたように見え、中央値は延長することになる。これを「リード・タイム・バイアス」(先行期間による偏り)といいます。転移性大腸がんで抗がん剤に延命効果があったとの主張は、すべてこのバイアスで説明できます。

 

もう少しわかりやすく近藤氏の主張を要約してみると、こういうことなのでしょう。「CTやMRI、あるいはFDG-PET (ペット) などの画像診断機器の進歩により、昔よりも小さな転移が見つかるようになった。現在は昔と違って、もっと早い段階で転移巣が発見されるために、がん診断時から死亡までの時間全体が延び、見かけ上、昔よりも余命が延びたように見えるだけ」。

なるほど、そういう状況は確かにあるかもしれません。要するに時代によって検査で発見されるがんの条件が異なるために、抗がん剤の効果で長生きできるようになったのはウソだというのが彼の主張です。

 

この ’リード・タイム・バイアス' を盾にして、転移性大腸がん治療の多くのエビデンスにはカラクリがあると決めつける表現が彼のこれまでの著作に頻繁に登場してきます。

ここで、「転移性大腸がんでは、無治療と比べた臨床試験は存在しない」という記述は正しくないので、以下に糺しておきます。

現在と20年前の治療成績とを間接比較する場合には、近藤氏の言うような 'リード・タイム・バイアス' の影響は無視できないのかもしれません。しかし、検査診断レベルが同じ時代背景で行われた比較試験の結果には、そのようなバイアスの影響はないはずです。

これまでに転移性大腸がん患者を対象とした「抗がん剤治療 vs 無治療 (BSC)」を比較したランダム化比較試験は、1998 年までの間に少なくとも 7 本以上存在しています。それらのエビデンスを全部ひっくるめて統計学的に解析し要約したものをメタアナリシスと呼び、エビデンスレベルが最も高いとも評価されています。その結果を紹介すると、抗がん剤治療によって無治療より死亡率を35%下げ、さらには患者の QOL 改善までも得られることが証明されています(Simmonds PC. BMJ 2000; 321: 531-535)。

 

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つまり、2000 年以前の段階で、転移性大腸がん患者に対する無治療の推奨はすでに否定されています。

 

さて、冒頭に帰って、「抗がん剤の進歩で生存期間の飛躍的な延長があるとすれば、それはリード・タイム・バイアスというカラクリがあり、見かけ上そうなるだけである」という近藤氏の結論づけについて、本当にそうなのかを検討する前に、下記の近藤氏の主張をご覧ください。

 

毒性が確実にある抗がん剤ですが、初期に認可されたものと比べ、近時認可されたものほど、毒性が強くなっていることに注意が必要です。(『抗がん剤は効かない』 より)


この主張を、いったん肯定してみることにしましょう。
近藤氏は一貫して、抗がん剤の「毒性」が原因で治療死する患者は少なくない、新規の抗がん剤になるとよりその傾向が強い、と数字を示さないで声をあげます。これらの主張をすべて受け入れて加味してみるとどうなるでしょうか。

FDG-PET検査などで、大腸がんの転移が昔よりも早い段階で発見されたとします。そのタイミングで、新規の抗がん剤が使用されるわけです。近藤氏のロジックに従えば、より強いその「毒性」によってバタバタと治療死する頻度が増えるということになります。そのような現象が、昔よりも顕著にみられるのではないでしょうか。すなわち、検査技術の進歩によって転移がいくら早い時期で発見されたとしても、より強力な「毒性」を有する新規抗がん剤を使用すれば、その「縮命効果」によって生存期間が昔よりも延びることは通常起こりえないはずです。

 

それでは、近藤言説を一気に覆すエビデンスがあるので以下説明していきます。

 

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これら2枚の図は愛知県立がんセンターより報告された、転移性胃がん患者と転移性大腸がん患者に対して、年代別に行われた抗がん剤治療の生存成績データです。

まず胃がんの場合(上図)、2001 年より 2004 年まで治療を受けた患者群(325名)と、2005 年より 2009 年まで治療を受けた患者群(379名)の生存曲線グラフを比較してみると、ほぼ重なっているのがわかります。理由としては、2001 年~ 2009 年を通じて、胃がんで使用される抗がん剤のオプションに大きな変化がなかったからです (Shitara K, etal. Gastric Cancer 2011; 14: 155-160)。

一方、大腸がんの場合はどうでしょうか(下図)。2005 年 4 月より 2007 年 3 月まで治療を受けた患者群(157名 コホートA)と、2007 年 4 月より 2009 年 3 月まで治療を受けた患者群(174名 コホートB)の生存曲線の間には、胃がんの場合とは違って、明らかに差が開いています。 この成績差が生まれる原因は、果たして近藤氏が主張する 'リード・タイム・バイアス' に収斂されるのでしょうか。2005年 ~ 2009 年の期間中、検査技術レベルに大きな革新が起きた話なんて聞いたことがありません。

 

では、本当の理由を申し上げます。実は 2007 年を境にして、新規抗がん剤 ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブが次々と承認され、新たなオプションが数多く使用できるようになったからです (Shitara K, et al. Oncology 2011; 81: 167-174)。
無治療で得られる生存期間 (中央値) が、かつては8ヵ月ほどであったことを基準として考えると、現在の新規抗がん剤の効果によって、生存期間 (中央値) で優に30ヵ月を越える利益が得られるようになっています。そして何よりも大切な証拠は、近藤氏は治療経験がないのでご存知ないかと思いますが、冒頭でも述べたように、抗がん剤の利益を患者さん自らが実感し、現場でしっかりと再現されているということでしょう。

これら事実を鑑みると、決して 'リード・タイム・バイアス' という理屈ではなく、大腸がん抗がん剤の進歩によって、生存利益がしっかり証明されているということを素直に認めるべきではないでしょうか。

 

以上より、近藤言説で乱用されている 'リード・タイム・バイアス' の問題はこれですべて解消されたことになります。

最後に、前々回のブログで取り上げた近藤氏作成のグラフ資料こそ、「リード・タイム・バイアス」がふんだんに実践されたものであり、その大きな自己矛盾をしっかり認識していただきたいものです。

 


次回に続きます。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

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近藤誠氏の嘘を明かす② -パニツムマブ試験の誤った解釈-

ご自身もがん患者の立場である立花隆氏との『文藝春秋』誌上対談記事が、『抗がん剤は効かない』(2011年 文藝春秋) に収められています。この内容について、結論を申し上げると根拠のない主観のオンパレード。いくら医学的に間違った解釈をしていても、第三者による査読もなく、誰からも問題を指摘されずに、個人の主観がまるごと活字になって有名出版社から世に放たれてしまうわけです。これでは、メディアから発せられるがん情報の信頼度が最低ランクである状況を変えることは難しいでしょう。

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2010年に「KRAS 遺伝子野生型の治癒切除不能な大腸がん」を対象として抗 EGFR 抗体薬 パニツムマブ (商品名 ベクティビックス) が承認されました。記事は、厚生労働省管轄の医薬品医療機器総合機構 (PMDA) で行われた承認審査の議事録にある問題を「糺 (ただ) す」という形がとられています。

製薬企業との利益相反のために臨床試験の結果が人為的に歪められているという陰謀説や、厚労省官僚と製薬企業、研究医師との不健全な関係疑惑にまで言及するのは、いつものやり方なのですが、ここではそれは置いておきます。

もっとも取り上げなくてはいけない問題は、パニツムマブの有効性と安全性が検証された海外のランダム化比較試験の結果に関する誤った解釈についてです。これについては、以前『週刊新潮』や拙著で指摘してきたことですが、本ブログでもより詳細に説明してみたいと思います。

 

このランダム化比較試験は、最初に受ける抗がん剤1次治療以降、少なくとも2回以上はがんが進行・増悪してしまった転移性大腸がんに対する3次治療以降において、「パニツムマブ治療 vs 無治療 (BSC)」が比較されました。243人の患者が対象とされ、第一達成目標は、無増悪生存期間 (progression-free survival; PFS) で評価されました。PFS とは、治療中にがんが増悪しないで生存できている期間のことです。この指標で優劣を決めましょうと事前に設定された試験の結果は、図にあるようにパニツムマブは無治療と比較してPFS が改善することが示されました (Van Cutsem E, et al. J Clin Oncol 2007; 25: 1658-1664)。このエビデンスに従って、3次治療以降において抗がん剤パニツムマブは標準治療として認められたわけです。

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ところが、これに対して近藤氏は異を唱えます。第一に、そもそも試験の評価ルールがおかしいと。全生存期間 (overall survival; OS)、すなわちどのような理由であっても死亡するまでの生存期間で評価しないと真に寿命が延びたとは言えない、と主張しています。なぜならば、がんは縮小したけれど、抗がん剤の副作用が原因で死亡したケースがきちんと評価されないから、というものです。この論点は以前に『週刊文春』誌上で対論した際にも同じことを仰られていました。しかし、そのような出来事が起きればPFS の中でもしっかり評価されていることをご存じないのかもしれませんが、とりあえずは彼らが問題視している OS のグラフを示します。

 

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近藤氏らは、抗がん剤パニツムマブで治療した患者群と無治療群それぞれの生存曲線はぴったり重なり、まったく差がないではないかと声をあげます。たしかに図を見るとOS では、両群間に差はありません。差がない以上は、抗がん剤は本当に効いたと言えないはずだというのが近藤氏らの主張です。そして、PFS の差についても、研究医師の主観によってデータが意図的に作り上げられたのではと疑いを一方的にかけています。

 

ここから、近藤氏の誤謬について詳細に指摘してみます。この OS の比較は、「パニツムマブ治療 vs 無治療」に完全に分けた比較ではないということです。この試験では倫理的な側面が考慮されていて、無治療群に割り付けられた患者の病気が「増悪」した後は、主たる達成目標の PFS 評価は終わりだから、パニツムマブを後で使用(クロス)してもよいとする「クロス・オーバー」試験が採用されていました。

実際に、無治療群に割り付けられた患者さんの多くは、がんの進行が認められた段階で、パニツムマブをその後の治療として投与されています。結果的には無治療群に割り付けられた232人の患者さんのうち、76%にあたる176人にパニツムマブが投与されていました。つまり、近藤氏が問題視する OS の比較においては「パニツムマブが投与された患者集団」と「無治療の患者集団」を比べたグラフではなく、最終的には「最初は無治療でも途中からパニツムマブが投与された患者を76%含む集団」を対照群として比べられたグラフになっているのです。PFS の群間差が、この「クロス・オーバー」によって帳消しとなり、OS で差がなくなってしまうのは仕方ありません。

仮に無治療群に割り付けられた患者さんの病気が増悪した後も、無治療を続けなさいというルールが決められていたならば、PFS の差がそのまま OS に反映された結果になっていたかもしれません。

ここで、このパニツムマブとほぼ同様な作用機序で、転移性大腸がんの標準治療薬として先に承認されていた抗EGFR抗体薬 セツキシマブ (商品名 アービタックス) についても説明します。

パニツムマブ試験の時と同様な大腸がん患者を対象として「セツキシマブ治療 vs 無治療 (BSC)」を比較したランダム化比較試験が先行していました。紹介すると、572人の患者を対象とし、この試験ではパニツムマブの時とは違って、近藤氏の要求する OS が第一達成目標とされました。この試験では、パニツムマブの時のような「クロス・オーバー」が採用されなかったわけです。結果は、以下の図で示します。

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全生存期間 (OS) 中央値で 6.1 か月 vs 4.6 か月と、セツキシマブ群のほうが無治療群よりも OS で上回りました (Jonker DJ, et al. N Engl J Med 2007; 357: 2040-2048)。 このようにしっかりOSで差がついて証明されたエビデンスがあるにもかかわらず、近藤氏はそれをフェアに取り上げようとはしません。

 

パニツムマブ試験の話に戻ります。対談の中で無増悪生存期間 (PFS) は人為的操作の影響がある、という下記の主張についても大きな問題があるので指摘しておきます。

 

PFS曲線は8週付近で、垂直ではなく階段状に下降しています。これは、各患者の検査日が数週にわたりマチマチだからです。こと BSC 群では、検査がより早期に前倒しして行われている。その結果、二本の曲線は離れて見え、「有意差」が検出されました。仮に取り決め通り、厳格に8週目での検査を心がければ、どちらの曲線もその時点で垂直に下降して(相当部分が)重なり、有意差は消失するはずです。これが PFS のトリックの一つです。(『抗がん剤は効かない』より )

 

この論点について、現場の実情に配慮しながら説明します。臨床試験がスタートしてから、CTで最初の病気の評価がされるまでの8週間のうちに、患者さんはおそらく2週間ごとに主治医の診察を受けることになります。なぜならば、パニツムマブは2週間に一回点滴投与する薬だからです。その経過の途中で、無治療 (BSC) 群に割り付けられた方は、薬が入っていないわけですから、「調子が悪い」「食欲がない」「お腹が張る」などといった、おそらくがんの悪化によって何らかの症状が出現したときに、主治医は8週目の CT 評価まで検査実施は待ってくれと言えるでしょうか。あるいは、効果も不明なテスト段階の治療を8週目まで無理矢理続けようとするでしょうか。良識ある医師であれば、「がんが進行しているかもしれないから、少し早めに CT を撮ってみよう」というふうに判断するはずです。効いていない治療ならば、即刻中止にするべきでしょう。しかし、近藤氏は厳格に一律8週目で CT 検査をするべきと主張しているわけです。いくら臨床研究とはいえ、倫理的配慮を欠き、目の前で困っている患者さんをおろそかに扱ってはいけません。

個々の被験者に対する医師の責任や倫理的原則として、'ヘルシンキ宣言' というものがあります。その宣言の中では次のような記述があります。

 
対象とする医学研究においては、被験者の福利に対する配慮が科学的及び社会的利益よりも優先されなければならない。(日本医師会訳)


要するに、患者さんの容態が8週間を待たずして悪化してしまうことがあれば、臨床試験のルールよりも優先的に配慮されるべき本来の医療があるわけです。近藤言説にみられる机上の理屈のみで臨床試験が行われているわけではありません。近藤氏はこれまで抗がん剤の臨床試験に直接関わったことがきっとないのでしょう。

次いでに、8週時点までのグラフの形を問題視しているようですが、生存曲線の群間比較は、ある時点だけの差をみて判断いるのではなく、すべての時点において統計学的な「要約」で比較されているのです。ですから、8週時点のみを切り取って議論するのは、生物統計学への理解が乏しいのではないかと疑われます。

 

次回に続きます。

 

脱・近藤誠理論のがん思考力

脱・近藤誠理論のがん思考力

  • 作者: 大場大
  • 出版社/メーカー: 青灯社
  • 発売日: 2016/10/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

  • 作者: 大場大
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2016/11/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

近藤誠氏の嘘を明かす① -グラフの偽装-

ひとたび現場から離れて世間を見渡してみると、インチキが蔓延しているのに驚くばかりです。そのような複雑さの中で、がん患者さんは適切な意思決定が果たしてできるのだろうか、本当に心配になります。

そんな中、詐欺めいたエセ医学を見極めるリテラシーの必要性を説いて欲しいという強い要望があり、今回また新たな本を書き上げました。

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

手術、抗がん剤、放射線治療、免疫療法、緩和ケア、先進医療、がん検診ほか多くのテーマを字数が許す限り、専門的事項をできるだけわかりやすく記したしたつもりです。

少なくともがん医療については、もはや「お医者さんにすべてお任せ」では立ち行かなくなっている現状で、患者さん一人ひとりが、賢く主治医を選び、賢く情報を選択し、賢い患者になることが求められています。一人でも多くの患者さんが、最善の医療を納得し安心して受けられるよう、明るくがんと共存できる生活・人生になるよう、本書が少しでもそれらに貢献できることを心より願っています。

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

 

さて、話は変わりますが、少し前まで『サンデー毎日』(毎日新聞出版) 誌上で、元慶應義塾大学病院放射線科医師 近藤誠氏を大々的に取り上げる企画が続いていました。直近では、森省歩氏という慶應義塾大学同門のジャーナリストとの対談が、「近藤誠 vs. がん患者代表」という構図で4週にわたって記事が掲載されていたようです。その前には、東京女子医大の林和彦医師との対談企画が組まれ、すぐに本として毎日新聞出版から出版されています。このときの対談進行役ならびに構成を手掛けたのもその森氏でした。さかのぼると、女優 川島なお美さんを取り上げたトンデモ記事 (文藝春秋 2015年11月号) に深く関わっていたのも彼であり、それ以降の近藤氏記事や著作は、すべて森氏との二人三脚で奏でられています。要するに、森氏は熱烈な近藤誠氏サポーターであり、かつビジネスのパートナーだということです。わかりやすく言い換えると、すべては近藤言説を引き立てる 'プロレス' 記事だといえるでしょう。故 川島なお美さんに及んだ許し難い様々な問題については、今回の最新刊でもまとめてありますので、よかったらご参照ください。

大手有名出版社である文藝春秋はもとより、小学館や幻冬舎、そして最近では前記の毎日新聞出版までもが、近藤氏を担ぐようになっています。次世代に託せるような教育が何ひとつ宿っていなくても、'出せば売れるから' なのでしょう。

患者さんの背景や価値観に照らし合わせながら 「無治療」という方針を積極的に考えることには、まったく異論はありません。しかしながら、近藤誠理論に従うという理由となると、しっかり批判の声をあげる必要があります。なぜならば、多くの '嘘' で塗り固められているからです。詳細については、拙著『脱・近藤誠理論のがん思考力』(青灯社) にすべて記しましたが、本ブログでも、近藤言説にみられる多くの '思考破綻' について、いくつかを紹介していきたいと思います。

 

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今回取り上げるのは、これまで数々のメディア媒体で登場させている偽装グラフについてです。これについての批判は、『週刊新潮』やこれまでの拙著、ならびに日医大武蔵小杉病院腫瘍内科 勝俣範之医師の著作『医療否定本の嘘』(扶桑社) でも取り上られています。それでも恥じずに、最近では小林麻央さんの乳がん闘病報道をネタとして、先の森氏とのプロレス記事 (文藝春秋2016年 8月号) の中でも再登場させているので、もう一度この場でそのグラフにある誤謬を糺しておきたいと思います。

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このグラフは、近藤氏の変わらない主張として、抗がん剤には「延命効果はない」のみならず「縮命効果」しかないことを証明するために自ら作成したものです。

生存曲線Aは約100年前のデータで「乳がん患者(治癒が望める患者も多数含む)に対する無治療の生存成績」です (Br Med J 1962; 2: 213-221)。生存曲線Bは約50年前のデータで「転移した乳がん患者に対する多剤併用抗がん剤による1次治療成績」です (Cancer 1985; 55: 341-346)。生存曲線Cは約15年前の「転移した乳がん患者に対する抗がん剤ドセタキセル単剤による2次治療成績」を示します (J Clin Oncol 2002; 20: 2812-2823)。

さらに付け加えると、生存曲線Bは米国にある有名なMDアンダーソン・がんセンターで1970年代にいくつもの抗がん剤を組み合わせた治療(多剤併用療法)を1次治療として行った治療成績の観察研究データです。一方、生存曲線Cはランダム化比較試験(第Ⅲ相試験)のデータです。2次治療として、「ドセタキセル単剤 vs ドセタキセル+ カペシタビン」の比較試験の結果から、なぜか負けた方のドセタキセル単剤の生存曲線が選択されています。幾多もある乳がん2次治療の比較試験の中からこのエビデンスをあえて選択し、さらには治療成績の悪いほうを切り取っていること自体にすでに多大な恣意が働いています。

データを吟味する前に、抗がん剤の1次治療、2次治療について説明します。転移があるために治癒が困難ながんと診断されてから、いちばん最初に受ける抗がん剤治療のことを1次治療と呼びます。その1次治療を受けている最中にがんの増悪を認め、1次治療の効果が失われたと判断された後、次に選ばれる抗がん剤治療のことを2次治療といいます。近藤氏はこれを「乗り換え治療」と称しています。抗がん剤メニューを変えて異なる抗がん剤2次治療を施したほうががよいのか、それとも抗がん剤を使用しないで手厚い緩和ケア (これを best supportive care; BSC と呼ぶ) がよいのか、そのようなクリニカル・クエスチョンは昔から議論され、多くのエビデンスの蓄積のもとに今ある1次治療、2次治療というものが確立されているわけですが、近藤氏はそれらの足を引っ張ろうとします。

この1次治療と2次治療の生存曲線を比較することすらナンセンスなのですが、近藤氏作成のグラフに付き合ってみることにしましょう。

生存曲線Cの全生存期間の中央値 (患者の50%が死亡した時点) が0.96年なのに対して、生存曲線Aのそれは2.7年と大きく上回っています。その中間にあるのが生存曲線Bです。抗がん剤を受けたBとCの生存曲線より、無治療のAの生存曲線がいちばん上に位置している状況を見せられると、「やはり放置したほうがいいのかな」と思ってしまうかもしれません。

 

以下に、近藤氏が冒している2つの大きなルール違反を最初に指摘しておきます。

1. エビデンスレベルや研究デザインがまったく異なる異質なデータ同士を直接比較させているという点。

2. 時代背景、患者背景、生存期間の起始点(スタート時点)がそれぞれまったく異なる生存曲線を直接比較させているという点。

走り競争にたとえるならば、背景がまったく異なるA, B, Cという3人を、それぞれ違う日、違う場所、違うスタート地点から無理矢理タイムを競わせて、Aが勝利する結果になるようなストーリーが最初から仕組まれているというやり方です。

 

生存曲線Aの生存期間のスタート時点は、原著論文通りの説明だと、カルテ記録上で症状が出現したと記載のある日付となっています。しかし、その時点で本当に転移を起こしていたかどうかまではわかりません。100年も前だと乳がんと診断されるのは死亡してからの解剖でわかるケースが多かったからです。実際には、現在だと適切な治療によって治る見込みのあった患者さんも数多く含まれているデータです。

生存曲線B生存曲線Cの生存期間のスタート時点は、転移がしっかりと確認されたうえで抗がん剤治療が開始された時点です。前述した通り、生存曲線Aの場合、スタート時点で転移しているかどうかも不明であるため有利なリード・タイム(生存アドバンテージ)が隠されています。

さらに、生存曲線Cのドセタキセル単剤による2次治療の生存期間のスタート時点は「転移性乳がんと最初に診断されてから1次治療を受けていた時間」が丸ごと省かれているため、生存曲線Bにはその分のリード・タイム(生存アドバンテージ)があります。

結局、このグラフは、近藤氏の主観でストーリーがすでに出来上がっていて、それに合うようにあちこちの論文からデータを都合よく調達してきて、一枚の紙に貼り付けて作られたものです。そして、まったく年代も背景も治療コンセプトも異なる乳がん患者データを、同じスタートラインに無理やり立たせて比較させている作業は、医師としての科学的姿勢を欠いた悪質な「リード・タイム・バイアス」のお手本だといえます。

 

最後に、驚くべきことに、生存曲線Aの出典論文には他にも重要なデータが掲載されていました。それは、まさに「治療群」vs「無治療群」を同じ研究手法で比較した生存曲線です。

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がんの悪性度(性質)を揃えてそれぞれで比較されていますが、結果はそれぞれで「治療群」が「無治療群」を大きく上回っていることが明らかです。ところが近藤氏はなぜかこの中の「無治療群」のデータのみを切り取って生存曲線Aとしています。「治療群」の方は無視されました。

一方で、論文著者は次のように治療することの有用性を強調しています。

「無治療だと半数が3年 (中央値2.7年) ほどしか生存できない。逆に治療を受けると生存期間が延びるだけではなく、患者さんの QOL まで改善する」

いかに近藤氏のデータの扱い方がフェアではなく主観に依存しているのかが、よくおわかりでしょう。このような作業を平気で行える時点で、近藤氏の医師としての信頼はすでに失われているのです。

次回に続きます。

脱・近藤誠理論のがん思考力

脱・近藤誠理論のがん思考力

  • 作者: 大場大
  • 出版社/メーカー: 青灯社
  • 発売日: 2016/10/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

BSフジの愚行とがん患者さんを食い物にするがんビジネスの横行 

昨日の10/30 (日) にとんでもない番組がBSフジで放映されました。

結論から申し上げると、あるトンデモ免疫療法グループの単なる宣伝 (プロモーション) に終始した番組でした。もしかしたら、このグループから宣伝費用を貰って制作されたのではないかと疑われてもおかしくないほどの偏った内容だったということです。

この番組スタッフたちは、いったいどれほど免疫療法についてしっかり勉強し、どのような取材力を発揮されたのでしょうか。この免疫療法グループに所属する人間に自由に語らせ、グループ提携クリニックのみに足を運びカメラを回しているだけ。

免疫チェックポイント阻害薬の登場も含めた、客観的ながん免疫療法全体の話や治療成績データは皆無。本当の患者なのかも不明な人物が、副作用が無いことを訴えるインタビューを繰り返すのみで、患者さんにとっての真の効果は何もみえてきません。局や制作サイドは一体どのような思考を巡らせて、このような番組を放映させたのでしょうか。

免疫療法の客観的な話については、下記のオピニオンサイトで説明していますので、よかったらご覧ください。

http://ironna.jp/article/4082

 

インターネット上で、「がん」「免疫療法」というワードで検索すると、所狭しと、免疫療法クリニックの広告サイトが登場してきます。なぜ、これほどまで多くの免疫療法を掲げるクリニックが乱立しているのでしょうか。このような特異な風景は、この日本だけだともいえます。

平たくいえば、「ラクをしてお金が儲かる」からでしょう。そして、法的規制が緩いために、医師の資格さえあれば、誰でも参入できるということもあります。したがって、そうしたクリニックで治療に携わる医師の素性には疑念がつきまといます。本当にがん治療を専門として真摯に患者さんと向き合ってきたプロフェッショナルな医師など、そのような現場にはほとんどいないはずです。

それを示すひとつの事柄として、患者さんの身にもし何か問題が起きたとしても、適切な対処はしてくれません。最初は優しく甘い言葉で温かく迎えてくれるものの、状態が悪化すれば、患者さんを投げ出すわけです。実際に、そのような目に遭った患者さんを多数みてきました。

薬事法の規制が働くのは、規制当局で承認された薬に対してのみです。そのため、未承認のクリニック免疫療法のように、効果が不確かなモノに高額な費用が発生したとしても、それ自体は法的に罰則を受けにくい状況にあります。また、患者さんが亡くなられている場合が多いため、裁判にもなりにくいのでしょう。

 

話は変わりますが、去る10/22に横浜で開催された、国内の会員数がもっとも多い日本癌治療学会の学術集会において「がん撲滅サミット2016」という市民公開講座も併せて催されました。一般の方たちにとって、リテラシーを育む絶好の機会であった「公開セカンドオピニオン」というセッションも企画されていたのですが、あるNPO法人の意向によって、5人の登壇医師のうちの2人が、エセ医療に携わっている者であることが判明しました。

それも同じ企業のトンデモ商品を扱っている提携クリニック代表者が2人も選ばれていたのは偶然でしょうか。さらにもう2人はビジネス色の強い粒子線治療推進の医師という非常に偏った人選だったわけですが、これら人選については、そのNPO法人顧問であるジャーナリストや弁護士が関わっていたというのです。

この企画に大きな疑念を抱いたがん治療専門医たちに率先して、卵巣がん体験者の会「スマイリー」代表の片木美穂氏が、即座に「市民公開講座に対しての見直し要望書」を日本癌治療学会理事長宛てに提出されました。

http://ovarysmiley.blogspot.jp/2016/10/54.html

これを受けてNPO法人が取った態度のひとつとして、プログラム内には朱色で目立つように、以下の文言が強調されたのです。

- ご注意-

本サミットでは暴言、誹謗中傷、妨害活動を行う場合は、ご参加されておられる他のお客様のご迷惑になりますので入場をお断りさせていただくか、ご退場をいただく場合がございます。

がん撲滅サミット - がん撲滅サミット2016 プログラム

公正な学術の場で、フェアさを欠いた不透明なイベント開催予定に疑義を呈したことが、 "暴言、誹謗中傷、妨害活動" に相当するとでも言いたかったのでしょうか。

しかしながら、結果的には片木氏が声を挙げたことが契機となり、がん治療専門医たちによる署名活動も相まって「公開セカンドオピニオン」開催は中止となりました。

http://www.jsco.or.jp/jpn/index/page/id/1274

片木氏の勇気ある行動と、北川雄光理事長 (慶應義塾大学一般・消化器外科学教授) の迅速かつ理性的な判断に敬意を称します。しかし一方で、一体なぜ突然沸いて出てきたNPO法人による働きかけを、当学会主催者 (群馬大学 腫瘍放射線学教授 中野隆史氏) 側が何のチェックもせずに受け入れてしまったのでしょうか。明るみにされていない様々な打算や利権構造が隠されているようにもみえますが、ひとつ各論的な問題として取り上げられた、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科学教授 勝俣範之氏の記事を紹介します。

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161011-OYTET50035/?catname=column_katsumata-noriyuki

 

高いお金を支払って車を購入する際は、もちろんその車が走ることが前提となります。高額な食事代を支払うときも、料理が美味しいという対価としてお金を支払うはずです。では、クリニックで行われている高額な免疫療法は、本当にがんに効くのでしょうか。コストに見合うだけのリターンはあるのでしょうか。

少なくとも私は、本当にそれが効いたと思われる患者さんに出会ったことがありません。私の周囲にいる専門医師たちも、口を揃えて同じようなことを言います。

申し上げておきたいのは、そんなに立派な治療であれば、高額なお金を支払わなくても、とっくに保険診療として認められているはずです。もちろん、日本のみならず世界中の同様な患者さんたちにも迅速に届けられるべきでしょう。真に画期的な治療ならば、ノーベル医学賞の対象になってもよいわけです。

要するに、がんの治療薬と名乗る以上は、どこにあっても普遍的な意味をもたないといけないということです。冒頭で問題視した番組内にもみられた「独自の○○式」や「知り合いから紹介された」治療では、そうなり得ないということは、「何かが変だ」と、批判的に吟味する必要があります。

効果が何一つ確かめられていないモノに、時間も高額なコストも一方的に奪われてしまうのでは、決して賢明な選択だとはいえません。

しかしそうはいっても、すがれるものであれば何にでもすがりたいというのが患者さんの心理でしょう。いくら科学的根拠がなくても、批判的にみることが難しいというのが正直なところかもしれません。

 

だからこそ、多くのがん患者さんにとって影響力の大きいテレビメディアは、真にがんと共存できる社会づくり (がんサバイバーシップ) を目指して、少しでも本当に有益な啓蒙・教育につながるような、慎重な情報提供を心がけていただきたいと願います。そうでないと、メディアから発信される情報が、エビデンスレベルとしての信頼度が最低ランクに位置づけられている事実を、いつまでたっても払拭することは難しいということです。

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

 

 

脱・近藤誠理論のがん思考力

最近、対談形式にして、その出版勢力をさらに拡大しつつある元慶應義塾大学放射線科医師 近藤誠氏ですが、彼の言説にある「思考破綻」をすべて明らかにした新刊が本日発売となりました。

脱・近藤誠理論のがん思考力

 近藤理論の根拠がいかに客観性を欠いているか。自身にとって都合のよいエビデンスばかりを調達してくることで、仮説に仮説を重ねてつくられた机上の理屈であることを示した内容となっています。

サイエンスとしての誤謬を糺したうえで、正しい思考のベクトルを併せて示したつもりです。

ぜひ、医療関係者の方々にもお読みいただけたらと思います。本書の内容レベルを把握しておけば、近藤理論と対峙しても信念対立に落とし込まれずに、クールな批判が可能となるでしょう。

 

真摯な医療とは、医学に基づいた実践学であり、その本質は人類愛に基づく利他の営為とされています。そして、今ある医療の姿は、まだ見ぬ将来の同様な患者さんのために、数えきれない多くの患者さんたちからの「命のバトン」を繋いできた歴史によって進歩を遂げてきました。だからこそ、倫理という礎のもとで普遍性を帯びたものでなければいけません。

 

過去において、手術至上主義のうえに君臨していた外科医の傲慢さにモノ申されたり、いち早く海外の動向をとらえて乳房温存療法の標準化を先導されたこと、そしてインフォームド・コンセントの普及にも寄与された業績は、先輩医師として賞賛に値する素晴らしいものだと評価します。
しかし、現在の近藤氏のふるまいは、がん患者さんの立場に立った利他的な営為とは言えません。そこには次世代に向けて託していかなくてはいけない学問や教育など見当たらないからです。

 

近藤言説を、もしかしたら「教養」枠として妄信してしまっている近藤氏ファンの方たちは、この機会にいかに認知的閉鎖にあるかを認識していただけたらと思います。また、一部の蛸壺タイプ信者に申し上げたいのは、匿名であることをよいことに、amazon レビュー欄やネット上で事実無根の話で貶めようとしたり、誹謗中傷を繰り返す、理知を欠いたふるまいはくれぐれも謹んでいただきたい。

 

拙著を参考にしていただくことで、近藤理論に漂うモヤモヤ感が払拭され、一般の方々のリテラシーがさらに深まることを願います。そして、社会が近藤理論を裁けるようになればと期待しています。

 

脱・近藤誠理論のがん思考力

脱・近藤誠理論のがん思考力

 

 

小林麻央さんのブログと千代の富士さんの訃報について

癌の痛みで限界を感じて、ようやくようやく薬を飲んだとき、身体の痛みが和らいで、なんだかわからないけれど、「許されていく 」感覚がしたのです。

そのときの痛みから 解放されていく「 和らぎ 」が今でも忘れられません。

http://ameblo.jp/maokobayashi0721/entry-12196624428.html

歌舞伎役者 市川海老蔵さんの妻 小林麻央さんが進行乳がんのため闘病中であることが報道されて以降、その麻央さんが最近ブログを更新され、再びお元気な声が届いたことで皆が安堵しました。がんと上手に付き合うために、日々前向きに一生懸命がんばっていらっしゃる様子がうかがえます。同じがんと向き合っている、スポットライトを浴びることもない多くの患者さんたちにとっても、彼女の声がきっと大きな勇気や希望となっているはずです。

と同時に、ブログの出だしには、以下のような '後悔の念' ともとれる吐露があり、変な胸騒ぎを覚えました。

あのとき、もっと自分の身体を大切にすればよかった

あのとき、もうひとつ病院に行けばよかった

あのとき、信じなければよかった

あのとき、、、

あのとき、、、

まだ記憶に新しい、女優 川島なお美さんもそうであったように、がんであることが判明し、重要な意思決定が求められる場面で、医師が逆に足を引っ張ることが少なくないからです。そのような者たちにみられるクセとして、偏った「立場」をとっていることがほとんどだといえます。例えば以下の通りです。

  • 手術を受けるべきではない
  • 抗がん剤は効かない
  • 切らずに治す
  • 免疫力でがんが消える

報道では、小林麻央さんが最初に乳がんと診断されてから、すでに2年近くが経過しているようです。乳がんと診断されてから最初に診た医師は、いったいどのような説明をし、どのような治療方針を奨めたのでしょうか。

「あのとき、信じなければよかった」

「あのとき、もうひとつ病院に行けばよかった」

と、麻央さんの口から漏れ出てしまう事の発端は一体何だったのでしょうか。

兎にも角にも、いま現在そしてこれからは、麻央さんには自分らしく安心して日々を暮らすためにも、がんと上手に付き合って欲しいなと心から願います。そして、更新ブログから聞こえてくる明るい声を、いつも楽しみにしています。

 

話は変わりますが、最近、元横綱 千代の富士さんの訃報というショッキングなニュースが流れてきました。ウルフの愛称で親しまれていた第58代横綱は、先の7月に61歳の若さでお亡くなりになりました。原因は膵がんとのことです。

手術後に転移が判明し、抗がん剤治療を奨められたようですが、次に訪ねたのが鹿児島にある放射線治療クリニックだと報道されました。名称はUMSオンコロジークリニック。私のクリニックにもよく間違い電話があります。

千代の富士さんは、そこのセンター長である放射線科医師 植松稔氏のセカンド・オピニオンを受け、「四次元ピンポイント照射」と命名された独自の放射線治療を受けたようです。

実は報道によると、女優 樹木希林さんもかつてこの治療を受けたらしいのですが、このクリニック治療は客観的にみると訝しく思ってしまいます。

そもそも、これだけ通常の放射線照射技術が革新的に進歩し、ピンポイント照射の標準化が進んでいる最中、保険診療として行われるべき治療がなぜ自由診療なのでしょうか。通常150万円~250万円ほどの治療費を患者さんに自己負担させているというのです。ケースによっては500万円もかかるそうです。

そして、問題に思ったのは、彼の著作『抗がん剤のうそ』(2012年 ワニブックス) をみると、そこは主観のオンパレード。再発リスクの高い乳がんであっても、独自の解釈で抗がん剤にはメリットがないと説いています。そして、他のがんに対しても同様に、抗がん剤は効かない、と。

さらに、植松氏の言説をみると手術は身体に負担を与えるからダメだと吹聴し、

「切らない乳がん治療が500名を超え」

「私たちが把握している限りでは、1期の乳がんではまだ再発も転移も経験していません」

とホームページに掲載されているわけですが、治療成績データはどこにも登場してきません。もちろん、論文という形にもなっていません。

「がん放置療法」と同様、客観的な根拠がないのに、そのようなことを平然と言い切ってしまうのはマズいのではないでしょうか。

話を元に戻すと、放射線治療はあくまでも手術と同じ局所治療であり、全身に働きかける治療ではありません。千代の富士さんのように、すでに全身病となってしまった膵がんに対して、各論としてどのようなインフォームド・コンセントをされていたのでしょうか。

抗がん剤をどうしても受けたくないという患者さんの価値観は尊重されるべきです。しかし、標準治療を否定する「立場」をとる医師が、情報に疎い患者さんにフェアな説明をしないで、一方的に誤った情報を植え付けることで、自身のビジネスに誘導するようなやり方は不健全だといえます。

さて、その「四次元ピンポイント照射」を受けた千代の富士さんには、一体どのような効能(利益)が得られたのでしょうか。相撲関係者の方々の話では、治療後は相当な苦痛を抱えながら過ごしていたようです。氷山の一角である転移病巣にX線を照射することよりももっと大切な、全人的に働きかける「緩和ケア」はしっかり施されていたのでしょうか。

結果的に、終末期は手術を受けられた元の病院にまた戻ってこられたようです。多くの悔いを抱えながら。

植松氏は、どうやら先進医療である粒子線治療も否定されているようです。それはそれでひとつの考え方なのでしょう。しかし、手術も否定。抗がん剤も否定。さらには、保険適用となっている現在の進化した放射線治療も独自の「四次元ピンポイント照射」より劣っていると言いますが、それを示す客観的データはどこにも存在していません。

そして驚いたのは、植松氏は近藤誠氏の慶応義塾大学病院時代の一番弟子だったということが、著作『がんより怖いがん治療』(小学館) に記述されています。どうやら、「四次元ピンポイント照射」が現在の照射技術よりも旧い世代であるにもかかわらず、高額な自費請求をするビジネスをはじめたことで、近藤氏から「心の破門」を受けていたようです。しかし、そんな話は患者さんにとってはどうでもよいことです。

千代の富士さんは、がんを抱えていても、家族のために、相撲界のために1日でも長くこれまで通り、自分らしく過ごしたいと思っていたはずです。残された人生において成し遂げたかったことも多々あったことでしょう。であるならば、がんともっと上手に付き合える術 (すべ) は他にもきっとあったはず。

謹んで、千代の富士さんのご冥福をお祈り申し上げます。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

  • 作者: 大場大
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2016/11/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 

子宮頸がん (HPV) ワクチン問題を巡って 医学vsイデオロギーの果ては...

子宮頸がんは若年女性にも発生し、20~30 歳代の女性が罹患する悪性腫瘍のうちで第1 位を占めています。日本では現在、年間10,000 人以上が新たに子宮頸がんに罹患し、約3,000 人もの女性が子宮頸がんで死亡していると推定されています。

女性ひとりひとりの生活や人生を奪うだけでなく、初婚年齢が高齢化する中で、少子化問題を抱えるわが国にとっては大きな社会問題として扱われるべき疾患です。

 

子宮頸がんは、下図に示すように、ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus:HPV)に性交感染した女性のうち、多くは自然に排除されるのですが、一部の女性では持続的な感染を引き金として、軽度異形成→中等度異形成→高度異形成→上皮内がん→浸潤がん、という連続した経路 (シークエンス) を辿ります。

Center for Cancer Research in the Journals 2008, Identifying Molecular Culprits of Cervical Cancer Progression より改変

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HPVには、100種類以上のタイプがあり、このうちの15種類が子宮頸がんの原因となりうるハイリスクタイプに分類されています。中でも特に16 型と18 型の2 つのタイプによる感染が最もリスクが高いといわれています。

1940年代に「異形成+上皮内がん」が「前がん病変 cervical intraepithelial neoplasia (CIN) 」として認識され、50年代にはすでに、CINの状態で早期発見される重要性が唱えられていました。

にもかかわらず

「上皮内がん100人のうち、99人のがんは放置で消えてしまうから大した病気ではない」

と主観で論じてしまう近藤誠氏の異質性については以前ブログで取り上げました。

 


“マザーキラー”と称される子宮頸がんの死亡率を減らすためには一体どうしたらいいのか?

という問いに対して、

  1. 科学的根拠に基づく子宮頸がん検診の受診率を欧米並みにアップさせること
  2. さらに上流レベルでがん発生予防を目指すために、HPV 感染を予防するワクチン(HPV ワクチン)接種の推奨

という策が検討されているかと思います。本ブログでは、フェアな立場で、後者のHPV ワクチンについて少し議論を深めてみたいと思います。

HPV 感染が引き金となって発生するがんだからこそ、ワクチン接種を行ってHPV 感染を防ぐことで、「前がん病変(CIN)」を減らし、結果的に子宮頸がんの発生リスクまでも阻止できると考えるのはごく自然で理知的な思考だといえるでしょう。

しかし、近藤氏は著作『近藤誠の「女性の医学」 』(2015年 集英社) の中で、以下のように唱えています。

•僕は何人もの母親たちから、このワクチンを娘に打たせるべきか相談されましたが、きっぱり「NO」と返答。がん予防には無意味なうえ、副作用のリスクが大きいからです。(同 p85)

•がんを予防しない、一生を台無しにするような重い後遺症を背負うかもしれない、そんな有害ワクチンを受ける必要は毛頭ありません。(同 p93)

 

2006 年に米国においてHPV ワクチンの使用が承認されて以降、2016年1月までにWHO加盟国のうち65か国で、国策プログラムとして世界中でワクチン接種が行われています。しかしながら、日本では2013年4月にようやく定期接種が開始されたわけですが、ワクチン接種を契機として「身体の広範な痛み」「倦怠感」「しびれなどの神経症状」に代表される諸々の副反応が報告されたことから、わずか2か月後の2013年6月14日付けで、厚生労働省健康局から安全性が確認されるまでは、「HPVワクチン接種の積極的な勧奨を一時中止する」という勧告がなされました。

その後、厚労省で副反応検討部会が発足され、平成21年12月から平成26年3月までの約338万人を対象にHPVワクチン接種後の様々な副反応症状2,475例について、徹底したデータ収集と解析、追跡調査、専門家による議論が行われました。

結果は、問題視されていた慢性疼痛・運動障害等の症状とHPVワクチン成分との因果関係を示す科学的根拠は示されませんでした。

思春期の少女を対象とした初めてのワクチンであるという性格上、重篤な副反応として報告された176例のうち、162例が神経学的疾患、中毒、免疫反応といった器質的な問題ではなく、ワクチン接種による痛みや不安、恐怖などをきっかけとして起きてしまった身体症状 (心身反応) の可能性があるという判断が示されました。このような症状の発生リスクはHPVワクチン10万人接種あたり1.5件というものでした。

 

しかしその間、一部マスメディアは、ワクチン接種後の副反応で苦しむ少女の映像やネガティブ記事を盛んに報道することで、HPVワクチンのリスクを誇大に煽る表現が繰り返し行われたのです。

HPVワクチン接種が勧奨されない状況がいまだに継続され、現在は接種率がほぼゼロに近いという状況となっています。このような事態は、先進国では日本だけの話です。

 

近藤氏によると、

免疫システムを破壊する恐ろしい副作用- (前略) おそらく、これらの副作用の多くは、ワクチンに添加されているアジュバント(免疫増強剤)” が原因です。その成分は水酸化アルミニウムなどの化学物質で、これらのアジュバントによって、本来なら体に侵入してきた異物を攻撃するはずの免疫システムが、自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患を引き起こしてしまうことがある。(同 p88-89)

ワクチンに添加されているアジュバント (免疫増強剤) の中毒が重篤な副反応の原因だと一方的に論じています。しかし、この議論はすでに解決しています。

アルミニウムが添加アジュバントとして含まれているワクチンは、何もHPVワクチンだけではありません。安全に長年実施されているB型肝炎ウィルスをはじめ、肺炎球菌、破傷風、ジフテリアなどといった多くのワクチンンにもアルミニウムが含まれているわけで、すでに安全性が十分に確認されています。

近藤氏の主張は、フランスのオーシエ氏という人物がワクチン接種部位の局所にアルミニウムが蓄積し、マクロファージという炎症細胞の浸潤が原因で、筋炎をはじめとする様々な全身症状を引き起こすという主張 (Vaccine 2005; 23:1359-67, Brain 2001; 1241821-31) を真似たものです。しかし、世界中の多くの専門家たちによって、前記理由によりオーシエ氏の仮説は否定されています。

 

一方、世界の情勢をみますと、世界保健機構 (WHO) や国際産科婦人科連合 (FIGO) は最新の世界中のデータ解析結果に基づいてHPVワクチンの安全性と有効性を繰り返し確認し、国家プログラムによるHPVワクチン接種を強く推奨しています。

具体的な有効性を示す多くのエビデンスがある中で、以下に2本のランダム化比較試験の結果を紹介します。

HPVハイリスクタイプとされる6型/11型/16型/18型をカバーする「ガーダシル」というワクチンを接種した集団5,305人とプラセボを接種した集団5,260人を比較追跡した結果、ハイリスクタイプ16型/18型の「前がん病変」である中等度異形成 (CIN2) の発生数に関して、ワクチン vs プラセボで 0例 vs 28例、高度異形成 (CIN3) の発生数では、ワクチン vs プラセボで 1例 vs 29例、上皮内がんでは、ワクチン vs プラセボで 0例 vs 1例という結果となり、「前がん病変」を97%~100%阻止していることがわかりました (N Engl J Med 2007; 356: 1915-27)。

次いで、HPVハイリスクタイプ16型/18型をカバーする「サーバリックス」というワクチンを接種した集団7,344人とプラセボを接種した集団7,312人を比較追跡した結果、CIN2の発生数では、ワクチン vs プラセボで 1例 vs 53例、CIN3の発生数では、ワクチン vs プラセボで 0例 vs 8例という結果となり、「前がん病変」を98%~100%阻止していました (Lancet 2009; 374: 301-14)。

いずれも観察期間が短い試験結果ではありますが、「前がん病変(CIN)」を阻止すれば、円錐切除を受ける必要がなくなり、その先にある子宮頸がんにもならずに済むわけです。したがって、HPVワクチンは、「女性の子宮を守り、女性の生命も守る」と言えるでしょう。

 

世界中で唯一、因果関係も不明な副反応にヒステリーとなっている日本の状況を危惧する声明が、2015年12月17日付けでWHOの諮問機関であるGACVS (ワクチンの安全性に関する諮問委員会) から発信されました。その中で、近藤氏のいう自己免疫疾患の発症リスクについて、フランス当局で行われた約200万人のワクチン接種者を対象に行われた大規模調査の結果が報告されました。ワクチン接種集団と非接種集団の間において、ギラン-バレー症候群に関しては10万例に1例程度のわずかな発生リスクがみられたものの、そのほかの自己免疫疾患の発症リスクに関しては差を認めなかったと結論づけられました。

そしてさらに、日本のとった政策判断に対して以下のように辛辣な内容のメッセージも残されています。

「厚労省の副反応検討部会で、専門家たちによる詳細な検討によってHPVワクチンと重篤な副反応との間に因果関係を認めなかったという結論が出されたにもかかわらず、HPVワクチン接種の再開に向けていまだコンセンサスが得られていない。その結果として、日本の若い女性たちは本来予防されるべきHPV感染に起因した子宮頸がん発生リスクに晒されたままである。以前からGASVSが指摘してきたように、不十分なエビデンスを根拠とした政治的判断は安全かつ有効性が示されているワクチンの接種利用を妨げることで、真の被害がもたらされるであろう」。(GACVS statement on safety of HPV vaccines 17 December 2015)

 

ここで強調しておかないといけないのは、ワクチン接種を契機として、因果関係がいくら証明されなくても思春期の少女たちに何らかの原因不明な症状が出現し、今もなお苦しんでいる事実はしっかり重く受け止め、十分な救済対策が取られなければいけない、ということです。

最近では、日本医師会・日本医学会の呼びかけにより、産婦人科医・小児科医・痛みや神経の専門家が一同に会して、HPVワクチン接種後にひとたび起きてしまった副反応への診療の手引きも作成されています。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/dl/yobou150819-2.pdf

これまで以上に、十分なインフォームド・コンセントのもとで、安全かつ安心できる環境下でのワクチン接種が行われるべきです。

しかし、蓋然性の低いリスクばかりに気を取られ、HPVワクチン接種の勧奨中止が現状のまま続くとなれば、若い女性にとってワクチンによるがん予防の利益を享受できないばかりか、先進国で日本だけが、今後も子宮頸がん罹患率の高い国のままであることが危惧されます。

国の優柔不断な姿勢を見かねてか、予防接種推進専門協議会より、2016年4月18日付けで日本産婦人科学会や日本小児科学会を含めた15学術団体の見解を取りまとめたうえで、「専門的な見地から、HPVワクチンの積極的な接種を推奨する」という声明が出されました。しかし、日本政府は依然としてワクチン接種に慎重な姿勢を示したままとなっています。

 

ゼロリスクでないとヒステリーを起こしてしまう問題は過去のイレッサ訴訟問題でもみられた病理です。HPVワクチン接種によって多くの女性の子宮と命を救えるはずの利益をないがしろにしてでも、蓋然性の低い、因果関係も定かではない不利益をことさら強調して、観念のみで全体を悪と裁く、このような思考破綻の病理が、近藤誠言説や一部マスメディアの他にも、いたるところで蔓延しています。

そして最近では、もしそれが事実であれば世界的大スキャンダルにもなりかねない厚労省管轄の「子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究班 (班長: 信州大学脳神経内科 池田修一氏) 」によるデータ捏造疑惑問題までもが浮上している始末。それらを指摘した最近の参考記事を以下に示します。

・村中璃子 氏 子宮頸がんワクチン薬害研究班に捏造行為が発覚 利用される日本の科学報道(後篇) WEDGE Infinity(ウェッジ)

・村中璃子 氏 子宮頸がんワクチン研究班が捏造 厚労省、信州大は調査委設置を 利用される日本の科学報道(続篇) WEDGE Infinity(ウェッジ)

・岩田健太郎 氏 http://georgebest1969.typepad.jp/

 

この国の将来を担う若い女性の子宮頸がんの発症を根本から予防し、たとえ前がん病変であるCINを発症してしまったとしても、早期発見・早期治療によって女性の妊孕能、そしてその生命を守っていくために、HPVワクチン接種と子宮頸がん検診の両方を広く普及させていくことはとても重要な課題であると考えます。そして、ひとりひとりが他人任せではなく、自身の身近な問題としてこの問題をよく考えていただけたらと思います。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

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経歴を詐称する者に「食べものだけでがんが消えた」と言われても…

小林麻央さんの乳がん報道にみられたメディア対応は、相も変わらずワイドショーのネタ扱いとしてでしか、「がん」という病気のことを報じることができないクセを露呈しました。一方で、書店に行くと「がん」を扱う棚には、安直ながん克服方法のようなエセ医療本が玉石混交としています。このような風景はこの国独特の現象であり、本当に豊かで成熟した大人社会と言えるでしょうか。

 

以前このブログで、『がんが自然に治る生き方 』(ケリー・ターナー 著, 長田美穂 訳; 2014年 プレジデント社) にある問題について取り上げました。


 今回は、この類の本で、出版社の宣伝効果も相まって、20万部以上も売り上げたベストセラー本『食べものだけで余命3か月のガンが消えた』(高遠智子 著 2014年 幻冬舎) を取り上げてみます。

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簡単に要約しますと、著者である高遠智子氏は、28歳の時にかかった進行卵巣がんに対し、手術、抗がん剤治療、放射線治療を受けるも再発を繰り返し、余命3カ月と医師から告げられたそうです。しかし、最終的には「食べものだけで」このがんを克服できたという体験談をもとにして、病気を治すための様々なレシピを紹介する内容となっています。

 

驚くべきことは、余命3か月のがんを抱えながら、フランス・パリの料理学校 Ecole Ritz Escoffier (リッツエスコフィエ) に入学し、4年間通って 「フレンチガストロノミー上級ディプロマ」まで取得されたそうです。さらに今度は中国に渡り、北京中医薬大学薬膳学専科に入学し、「国際中医薬膳師免許」も取得。

それら「食」に関する素晴らしい経歴が、出版当時メディアで大々的に報じられ、「食べるものだけで病気は治る」というタイトルを掲げて、オーガニック薬膳料理教室やテレビ・ラジオ出演、雑誌・新聞連載、はたまた講演など積極的に幅広い活動を展開している方です。

この本に書かれている内容は、ケリー・ターナー氏の本のように、あれもダメ、これもダメのような偏った食生活を強いるレシピではなく、確かに治療で疲れたがん患者さんにとって、日々の食生活を潤すことで、QOL (生活の質) の向上にも繋がる有益なアドバイスになりえるのかもしれません。

しかし問題なのは、著者の体験談を強調することで

「食べものだけでがんが治る」

という言いきり型のメッセージが発信されていることです。そして、この本には医学的に真偽が疑われるような記述が目立つので、以下に説明してみます。

 

例えば、最初に告げられた診断名として、記述されている内容からはおそらくは腹膜播種を伴った進行卵巣がんであったと思われます。実際には「スキルス性の卵巣ガン」と表現されているのですが、そのような疾患名はありません。また、おそらくは可及的に最大限の腫瘍減量を行う、卵巣がんならではの手術を受けたようですが、それが終わった後、著者は主治医に対して以下のように告げています。

「おそらくすぐに肺に転移するでしょう。その時は全ての治療を放棄して、覚悟して死と向き合いたい」

治ることを目指して手術を乗り越えた直後にもかかわらず、なぜ「おそらくすぐに肺に転移するでしょう」のような事を自ら言えるのでしょうか。

そして、再発するリスクはあったのかもしれませんが、なぜ肺という臓器だけへの転移を注視していたのでしょうか。腹膜播種の再発リスクの方が個人的にはもっとも気になりました。

それから抗がん剤治療やランダム?(表記通り)な放射線治療を受けていたようなのですが、

「ガンの進行が停止したからと治療を経過措置にすると、また1か月も経つと腎臓、脊髄、乳房に転移する始末。いろいろな先端医療を組み込みながら、再発を繰り返し、免疫力も時には途絶えながら、余命の半年をあっという間に乗り越え、いつか3年近く経っていました」

抗がん剤を中止してから1か月後に、なんと腎臓、脊髄、乳房に転移したようです。このように全身臓器にアグレッシブに再発してしまったにもかかわらず、それら重篤な病状に対する留意や再発をしてからの治療経過については何も記述されていません。

他にも、いろいろな先端医療とは何のことでしょうか。再発を繰り返したとは、どのような病状だったのでしょうか。

「31歳になったばかりの晩秋の頃、体力も筋力もなくなり、脊髄に転移したガンの痛みから、ついに立ち上がることができなくなってしまいました」

この記述のみで判断すると、脊髄麻痺のリスクがあり、緊急事態なわけです。早急に緩和的な放射線治療が必要だったのではないかと心配になりました。しかし、そのような重篤な症状に関する留意やその時にどのような治療が行われ、どのような経過を辿ったのかも書かれていません。その後、肺にみつかった病変が検査され、主治医にこう告げられています。

「卵巣ガンと同じ、スキルス性の腺ガンが見つかりました。進行が速いタイプですので、今の体力からいけば3か月くらいが目安です」

著者がかねてから予感していた通りの肺への転移が発見されました。しかしここでも、「スキルス性の腺ガン」と表現されているのですが、そのような疾患名はありません。

あと、臨床的に不思議なのは、時系列として先行していたはずの腎臓、脊髄、乳房への転移が発見された時には、なぜもっと重篤な状態として扱われなかったのでしょうか。

手術を受けてから3年経過して出現した肺転移に対してのみ「進行が速いタイプ」と告げられ、いきなり「余命3か月」という事態になる理由がよくわかりません。腎臓、脊髄、乳房への転移や、ほかにも繰り返したとされる再発の状況は当時どうだったのでしょうか。病状の前後関係がぼやけている印象です。

 

肺への転移と診断された後、脊髄への転移による疼痛で歩行も困難な不都合を抱えていた状況で、死を覚悟して車イスでパリに渡り、モンマルトルのマルシェで手に取ったトマトをかじった時に、

「唾液が湧いてきて、食と体と心の結びつきに目覚めた」

とのことです。

それから、本のプロフィールに書かれている料理学校リッツエスコフィエに通うことを一念発起し、いつしか「ガンが消えた」ことになっています。

ここで、読者がいちばん知りたいはずの、その間どのような食事レシピによって「ガンが消えた」のか、因果関係についてやその時の具体的な病状経過が時系列として何も記述されていません。

このケースがそうだと言っているわけではありませんが、体験談レベルのエビデンスがなぜ信頼に足らないのかというと、虚偽の話はいくらでもつくれてしまうことを付言しておきます。

 

さて、この本が出版されてから、下記のような記事が週刊誌に掲載されました。どうやら著者に経歴詐称の疑惑が向けられたようです。

- この本には経歴詐称疑惑というさらに大きな問題があった。高遠氏は、パリのリッツホテルにある料理教室リッツエスコフィエに4年かけて通い、「上級ディプロマ」を取得したとある。現在、同校は休校中だが、ホテルマネージャーのジャン-ポール・トルヴィザン氏が言う。

「受講生の名簿を調べましたが、高遠智子、あるいは旧姓の藤原智子という名前では登録がありません」

高遠氏はその後、中国に渡り、北京中医薬大学の薬膳専科に1年間留学し、「国際中医薬膳師」の免許を取得したという。だが、同大留学生事務所のチェン氏は、次のように話している。

「当大学に薬膳専科はありません、中医中薬専科はありますが、この科は卒業まで5年かかり、1年の留学なんてありえません。そもそも本校は学歴は与えても、資格を与えることはないのです。名簿に名前はありませんが、卒業証書を見せてくれれば、すぐに真偽のほどを確認します」-

(『FLASH』2014年7月15日号より)

 確かにご本人のホームページには、これら一連の経歴について

『「食で細胞を活性化し、再生することはできないか」と思い立ち、 単身パリで食の勉強を始める。帰国後、薬膳漢方を学ぶため、約1年中国に渡る。東洋と西洋の食、 素材、知識を活かして、身近な素材で食べて元気になる、自分で自分治し!をテーマに積極的に活動を続けている。』

と記されているのですが、著作プロフィール欄にある具体的な経歴は掲載されていませんでした。せっかく辛いがんを抱えながら苦労して取得された資格ですから、経歴に偽りがないのであれば公に向けたプロフィールとして堂々と掲載されてもよいのではないでしょうか。

 

この本については、神戸大学病院の感染症内科医師である岩田健太郎氏が先行してブログで感想を述べられていました。

トンデモ本にみえてやっぱりトンデモ本というのもあるわけで、、、、 - 楽園はこちら側

また、岩田氏の著作『食べ物のことはからだに訊け!』(2015年 ちくま新書) の中で、「がん食事療法」に向けられた適切な指摘があったので、そちらの方も紹介しておきます。

-「がんが絶対に治る」とか「がんにならない」という食事が存在すれば、それは医学上偉大な発見であり、地球上の人々は大きな恩恵を受けることでしょう。そういう食事法を知っている人は、それを世界中の専門家に伝え、その効能を教え、世の中の苦しんでいる患者たちに尽くすのが職務上の義務だと思います。それができないのは、「そうでない理由」があるからなのだと思います。(同 p44-45) -

 

経歴詐称の疑いが囁かれてから2年間の沈黙を経て、高遠氏は最近またタイトルに「ガン」を売り文句とした新たな著作『余命3カ月のガンを克服した私が食べたもの』(2016年 祥伝社) を出版したようです。その内容はさておき、後書きには以下のような目を疑う記述がありました。

「じつは、前著で、フレンチガストロノミー上級ディプロマと国際中医薬膳師免許を取得していると記述しましたが、この2つの資格を取得しておりません。この件で、多くの方に多大なるご迷惑をおかけしました。」 (同 p177)

 

著者と出版社のモラルは一体どうなっているのでしょうか。出版当時、高遠氏は「フレンチガストロノミー上級ディプロマ」と「国際中医薬膳師免許」を取得していることを最大の宣伝文句として、多くのがん患者さんたちに信頼を与えていたはずです。

そうなりますと、このように平気で嘘をつける者のいう「余命3か月のガン」も果たして本当だったのでしょうか。上述したように、医学的記述や病状の時系列がかなり曖昧なわけで、そのような疑惑をもたれても仕方がないということを申し上げています。

 

シンプルでセンセーショナルながん克服本のようなものを読まれる際には、批判的吟味を賢く働かせながら、妄信しないように慎重に読み進めていくことを心がけて欲しいと願います。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

  • 作者: 大場大
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  • 発売日: 2016/11/12
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