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大場大のブログ "セカンドオピニオン"

がん治療専門医による、あくまでも個人的な「つぶやき」ブログ

近藤誠氏の川島なお美さん記事に思うこと

文藝春秋 (十一月号) に、またもや亡くなられてから声をあげる常套手段で、故 川島なお美さん の記事が掲載されました。「法律上、亡くなった方は医師の守秘義務の対象ではなくなりますが~」という前提を置いているようですが、亡くなられた川島さんの個人情報をベラベラと公にするのは倫理的にいかがなものでしょうか。

そして驚いたのは、「肝内胆管がん」と最初に診断されてから間もなくして、なんと近藤氏のもとを訪れ、セカンドオピニオンを求めたというのです。記事の内容は、相も変わらず持論をうまく外挿しながら、医師でありながら非医学的な「観念」の連打を繰り返しています。

同様な病気を患われた方がこの記事の誤った情報に引っ張られないためにも、このブログで糺してみたいと思います。

 

その前に、川島なお美さんの訃報が流れたタイミングで様々な専門性を持った医師たちがメディアを介して盛んにコメントをされていました。しかし、時系列として彼女が「肝内胆管がん」と診断された時点における重要な各論は皆無であったような気がします。「予後が悪いがん」だから、手術をしても治らなかったのでは?と、なんとなく決めつけられたフワフワした議論もみられました。本当にそうだったのでしょうか。

 

詳細な情報がありませんので、明確なことは言えませんが、近藤氏の記事の文面から予測できることを述べてみます。

「MRI 検査で二センチほどの影が確認された」

「検査画像では転移の所見は認められなかった」

要するに、「腫瘍径:2cm大」「腫瘍個数:単発 (1個だけ)」「転移:目に見えるリンパ節転移や遠隔転移を認めない」という条件の「肝内胆管がん」だと思われます。原発性肝癌取扱い規約 第6版 (日本肝癌研究会 編) に従うと、ステージⅡ (場合によってはⅢ) ということになるでしょうか。「予後が悪いがん」と決めつけたコメントを発する医師が大勢いるようですが、上記条件の「肝内胆管がん」に対して、がんの取り残しなく、しっかり手術を受けるとどれほどの予後が予測されるかご存知でしょうか。

質の高い手術を行うことで有名なジョンズ・ホプキンス大学 (米国) の外科医 Hyder 医師の報告によると、 514 例の「肝内胆管がん」を治療した成績をふまえて提案した「ノモグラム」という予後予測解析ツールがあります (JAMA Surg 2014;149: 432-8.)

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それを使って予測してみますと (あくまでも、記事情報のみでの手術前予測であることはご了承ください)、近藤氏のもとに訪れた時点で

少なくても「手術によって3年生存率は80%以上、5年生存率は70%以上」

という結果になります。あくまでも予測とはいえ、診断当初はいくらでも治せるチャンスがあったと言えるでしょう。

しかし、近藤氏は手術は「合併症も含めてバタバタと亡くなっていく」、「メスを入れたところかにがん細胞が集まり、急激に暴れ出すことが多々ある」危険なもの、と数字を一切示さないで誇大に恐怖を煽るだけです。それらの根拠は一体どこにあるのでしょうか。

記事通りだと、川島さんは、実際に手術を受けたのが、診断時からなんと「5ヶ月」も経ってからのようです。お仕事の関係や、主治医との折り合いが悪かったのかもしれませんが、近藤氏の意見に賛同してしまったということはなかったのでしょうか。

 

「肝内胆管がん」が厄介なのは、肝臓には豊富なリンパ流があり、そのふるまいはリンパ節転移を非常に起こしやすいということに尽きます。病気が見つかってから「5ヶ月」も経てば、がん細胞は容易にリンパの流れに乗って、転移をしてしまうリスクが高くなるのは当然でしょう。以下、4つの大きなリンパ流を示します。

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  ①肝十二指腸間膜、②胃小彎、③大動脈周囲、④縦隔  

 

「治癒」を目指すためには、これらリンパの流れを意識した質の高い手術が「肝内胆管がん」には求められるのです。

 

さらに問題なのは、低侵襲 (ストレス) だからという理由で、平然と「ラジオ波での焼却」が薦められています。メディア上でそれに賛同を示す医師もみられますが、上記で示したようなリンパの流れを意識した専門性の高い手術をすることで、「治癒」できるかどうかが議論されるべき病気なのに、目に見える箇所をなんとなく姑息的に焼いたらいいと、個人の主観・嗜好でものを言ってはいけないのです。手術で治癒可能な「肝内胆管がん」に対して生存利益を示す根拠がないにもかかわらず、気軽にラジオ波焼却という選択肢を提示するべきではありません。放射線治療も然りです。

 

結果的には、川島さんは半年近く「放置」されていたことになります。この病気特有のふるまいを、診断された時点で丁寧に説明されなかったことが最大の罪に思えてなりません。

この記事のタイトルには、「川島なお美さんはもっと生きられた」とありますが、事の真相は、近藤氏の意見 (オピニオン) に振り回された結果、「治るチャンスを逸してしまった」ということではないでしょうか。医学的に誤った内容を平然と記事にしても恥じない出版社×近藤誠氏、患者さんの尊い命を自らのビジネスに利用することに良心の呵責はあるのでしょうか。

 

最善の情報、最善の医師に辿り着いていたとしたならば、現在も元気な姿で舞台に立っていたかもしれません。素晴らしい女優であったからこそ、早い最期が惜しまれます。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

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  • 作者: 大場大
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2016/11/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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