大場大のブログ "セカンドオピニオン"

がん治療専門医による、個人的な「つぶやき」ブログ

小林麻央さんのブログと千代の富士さんの訃報について

癌の痛みで限界を感じて、ようやくようやく薬を飲んだとき、身体の痛みが和らいで、なんだかわからないけれど、「許されていく 」感覚がしたのです。

そのときの痛みから 解放されていく「 和らぎ 」が今でも忘れられません。

http://ameblo.jp/maokobayashi0721/entry-12196624428.html

歌舞伎役者 市川海老蔵さんの妻 小林麻央さんが進行乳がんのため闘病中であることが報道されて以降、その麻央さんが最近ブログを更新され、再びお元気な声が届いたことで皆が安堵しました。がんと上手に付き合うために、日々前向きに一生懸命がんばっていらっしゃる様子がうかがえます。同じがんと向き合っている、スポットライトを浴びることもない多くの患者さんたちにとっても、彼女の声がきっと大きな勇気や希望となっているはずです。

と同時に、ブログの出だしには、以下のような '後悔の念' ともとれる吐露があり、変な胸騒ぎを覚えました。

あのとき、もっと自分の身体を大切にすればよかった

あのとき、もうひとつ病院に行けばよかった

あのとき、信じなければよかった

あのとき、、、

あのとき、、、

まだ記憶に新しい、女優 川島なお美さんもそうであったように、がんであることが判明し、重要な意思決定が求められる場面で、医師が逆に足を引っ張ることが少なくないからです。そのような者たちにみられるクセとして、偏った「立場」をとっていることがほとんどだといえます。例えば以下の通りです。

  • 手術を受けるべきではない
  • 抗がん剤は効かない
  • 切らずに治す
  • 免疫力でがんが消える

報道では、小林麻央さんが最初に乳がんと診断されてから、すでに2年近くが経過しているようです。乳がんと診断されてから最初に診た医師は、いったいどのような説明をし、どのような治療方針を奨めたのでしょうか。

「あのとき、信じなければよかった」

「あのとき、もうひとつ病院に行けばよかった」

と、麻央さんの口から漏れ出てしまう事の発端は一体何だったのでしょうか。

兎にも角にも、いま現在そしてこれからは、麻央さんには自分らしく安心して日々を暮らすためにも、がんと上手に付き合って欲しいなと心から願います。そして、更新ブログから聞こえてくる明るい声を、いつも楽しみにしています。

 

話は変わりますが、最近、元横綱 千代の富士さんの訃報というショッキングなニュースが流れてきました。ウルフの愛称で親しまれていた第58代横綱は、先の7月に61歳の若さでお亡くなりになりました。原因は膵がんとのことです。

手術後に転移が判明し、抗がん剤治療を奨められたようですが、次に訪ねたのが鹿児島にある放射線治療クリニックだと報道されました。名称はUMSオンコロジークリニック。私のクリニックにもよく間違い電話があります。

千代の富士さんは、そこのセンター長である放射線科医師 植松稔氏のセカンド・オピニオンを受け、「四次元ピンポイント照射」と命名された独自の放射線治療を受けたようです。

実は報道によると、女優 樹木希林さんもかつてこの治療を受けたらしいのですが、このクリニック治療は客観的にみると訝しく思ってしまいます。

そもそも、これだけ通常の放射線照射技術が革新的に進歩し、ピンポイント照射の標準化が進んでいる最中、保険診療として行われるべき治療がなぜ自由診療なのでしょうか。通常150万円~250万円ほどの治療費を患者さんに自己負担させているというのです。ケースによっては500万円もかかるそうです。

そして、問題に思ったのは、彼の著作『抗がん剤のうそ』(2012年 ワニブックス) をみると、そこは主観のオンパレード。再発リスクの高い乳がんであっても、独自の解釈で抗がん剤にはメリットがないと説いています。そして、他のがんに対しても同様に、抗がん剤は効かない、と。

さらに、植松氏の言説をみると手術は身体に負担を与えるからダメだと吹聴し、

「切らない乳がん治療が500名を超え」

「私たちが把握している限りでは、1期の乳がんではまだ再発も転移も経験していません」

とホームページに掲載されているわけですが、治療成績データはどこにも登場してきません。もちろん、論文という形にもなっていません。

「がん放置療法」と同様、客観的な根拠がないのに、そのようなことを平然と言い切ってしまうのはマズいのではないでしょうか。

話を元に戻すと、放射線治療はあくまでも手術と同じ局所治療であり、全身に働きかける治療ではありません。千代の富士さんのように、すでに全身病となってしまった膵がんに対して、各論としてどのようなインフォームド・コンセントをされていたのでしょうか。

抗がん剤をどうしても受けたくないという患者さんの価値観は尊重されるべきです。しかし、標準治療を否定する「立場」をとる医師が、情報に疎い患者さんにフェアな説明をしないで、一方的に誤った情報を植え付けることで、自身のビジネスに誘導するようなやり方は不健全だといえます。

さて、その「四次元ピンポイント照射」を受けた千代の富士さんには、一体どのような効能(利益)が得られたのでしょうか。相撲関係者の方々の話では、治療後は相当な苦痛を抱えながら過ごしていたようです。氷山の一角である転移病巣にX線を照射することよりももっと大切な、全人的に働きかける「緩和ケア」はしっかり施されていたのでしょうか。

結果的に、終末期は手術を受けられた元の病院にまた戻ってこられたようです。多くの悔いを抱えながら。

植松氏は、どうやら先進医療である粒子線治療も否定されているようです。それはそれでひとつの考え方なのでしょう。しかし、手術も否定。抗がん剤も否定。さらには、保険適用となっている現在の進化した放射線治療も独自の「四次元ピンポイント照射」より劣っていると言いますが、それを示す客観的データはどこにも存在していません。

そして驚いたのは、植松氏は近藤誠氏の慶応義塾大学病院時代の一番弟子だったということが、著作『がんより怖いがん治療』(小学館) に記述されています。どうやら、「四次元ピンポイント照射」が現在の照射技術よりも旧い世代であるにもかかわらず、高額な自費請求をするビジネスをはじめたことで、近藤氏から「心の破門」を受けていたようです。しかし、そんな話は患者さんにとってはどうでもよいことです。

千代の富士さんは、がんを抱えていても、家族のために、相撲界のために1日でも長くこれまで通り、自分らしく過ごしたいと思っていたはずです。残された人生において成し遂げたかったことも多々あったことでしょう。であるならば、がんともっと上手に付き合える術 (すべ) は他にもきっとあったはず。

謹んで、千代の富士さんのご冥福をお祈り申し上げます。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

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  • 作者: 大場大
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
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