大場大のブログ "セカンドオピニオン"

がん治療専門医による、あくまでも個人的な「つぶやき」ブログ

近藤誠氏の嘘を明かす④ -誇大なリスク強調-

現在、進行乳がんで闘病中の、歌舞伎役者 市川海老蔵さんの妻 小林麻央さんも受けていた パクリタキセル(商品名 タキソール)という抗がん剤があります。近藤誠氏のベストセラー本 『がん治療で殺されない七つの秘訣』(2013 年 文春新書) の中で、この薬剤の添付文書に記載されている情報を抜粋しながら、抗がん剤の危険性を誇大に煽る記述があるので、以下に紹介します。


パクリタキセル (タキソール) の重大な毒性
・ショック、アナフィラキシー様症状:呼吸困難、胸痛、低血圧、頻脈、発汗等が生じる・白血球減少等の骨髄抑制・末梢神経障害、麻痺・間質性肺炎、肺線維症・急性呼吸窮迫症候群(急速に進行する呼吸困難、低酸素症)・心筋梗塞、うっ血性心不全、心伝導障害、肺塞栓、血栓性静脈炎、脳卒中、肺水腫・難聴、耳鳴 ・消化管壊死、消化管穿孔、消化管出血、消化管損傷・重篤な腸炎・腸管閉塞、腸管麻痺 ・肝機能障害、黄疸・膵炎・急性腎不全・中毒性表皮壊死融解症(全身の皮膚が壊死して、ズルッと剥げてしまう)・播種性血管内凝固症候群(DIC)(全身の血が固まってしまい、多臓器不全になる)

このリストを眺めただけで、がんを治療しないでおくほうが、抗がん剤の毒性で死ぬよりラクに死ねる、という意味がおそらく理解できるでしょう。


では、おそらく読者の中にも痛み止めとして、あるいは解熱目的で使用されたことがあるかもしれません。鎮痛・抗炎症・解熱剤である ロキソプロフェン (商品名 ロキソニン)の添付文書をみてみると、そこにも重大な副作用が数多く列挙されています。

・ショック、アナフィラキシー様症状・無顆粒球症、溶血性貧血、白血球減少、血小板減少・中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)・急性腎不全、ネフローゼ症候群、間質性腎炎・うっ血性心不全 ・間質性肺炎・消化管出血 ・消化管穿孔・小腸・大腸の狭窄・閉塞・肝機能障害、黄疸・喘息発作・無菌性髄膜炎・横紋筋融解症・再生不良性貧血

私も時々、使用する薬ですが、ロキソニンの服用を薦められたときに、これらリスクを過度に恐れることで、ロキソニンの副作用で死ぬのは嫌だからと、発熱を我慢したり、痛みを我慢したりする思考は果たして健全だといえるでしょうか。

 

世の中にはゼロリスクが担保されている医療などありえません。当然、抗がん剤 タキソール は、上記の ロキソニン のような薬剤とは性質が明らかに異なり、何らかの副作用がそれなりの頻度で出現するのは事実でしょう。中には、予測できない重篤な副作用が起きてしまうかもしれません。それでも患者さんの目指す希望や目標、例えば「がんと上手に共存する」ことを希求する場合には、副作用で QOL が損なわれないように、副作用が重篤にならないように管理されながら、抗がん剤がもたらす主作用(ベネフィット) に期待します。そうしたリスクとベネフィットのバランスを天秤にかけながら、抗がん剤治療は行われます。

もちろん、抗がん剤ありきではなく、ベネフィットが得られにくそうな患者さん、リスクが問題になりそうな患者さんには抗がん剤は薦められません。良識ある専門医師は、常に「無治療」という選択肢も持ち合わせています。

然るに、抗がん剤の副作用は危険だぞ、怖いぞ、と誇大に恐怖を煽り、主作用までも頭ごなしに否定してしまうのでは、思考停止以外のなにものでもありません。

 

急性白血病や悪性リンパ腫など「血液がん」の多くは、抗がん剤が第一に選ばれるべき治療法で、標準治療といえます。(中略)固形がんの中でも、睾丸のがんと子宮絨毛がんだけは、抗がん剤に延命効果どころか治す力まである(理由は不明)。(『抗がん剤は効かない』2011年 文藝春秋より)

 

近藤氏は、肺がんや乳がん、大腸がんのような腫瘤(塊)をつくる固形がんに対しては、抗がん剤に延命させる力はないと言い切る一方で、血液がんや、一部の固形がんに対しては、抗がん剤が効く例外ケースを確かに認めています。しかし、これら疾患の治療で使用される抗がん剤の中には、通常の固形がんで使用される抗がん剤よりも重篤な副作用が起こり得る薬剤が選択されます。

悪性リンパ腫に対する三種類の抗がん剤シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンに副腎皮質ホルモンであるプレドニゾロンを組み合わせた CHOP(チョップ)療法や睾丸のがん(精巣腫瘍)に対する三種類の抗がん剤ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンを組み合わせた BEP(ベップ)療法もそれに相当するでしょう。

近藤氏が、固形がんに対する抗がん剤を「毒薬」扱いされるのであれば、そのロジックを、なぜ悪性リンパ腫や精巣腫瘍にも同様に当てはめようとしないのでしょうか。

 

最近、いわゆる '免疫療法' として何かと話題になっている免疫チェックポイント阻害薬 オプジーボという抗がん薬があります。 これについては、以下のサイトでも詳細を論じているのでよかったらご参照ください。

 

オプジーボは、患者さんにとって高いレベルのエビデンスに裏付けられた重要な治療オプションであることは間違いありません。ただし、投与された患者さん全員に効果が確実な薬ではないということにも留意しておくべきです。これまでの臨床試験の結果では、奏功する割合は20-30%程度であり、オプジーボの効果が事前に予測できないことも医療経済的には問題になっています。そして、メディアは相も変わらず、まるで奇蹟でも起こすかのような効果ばかりを強調していますが、元々備わっている免疫バランスを崩してリンパ球の攻撃機能を惹起させるので、健常な「自己」にもダメージを与えます。オプジーボは、抗がん剤とはまるで違った副作用が生じる '諸刃の剣' のような薬であることも知っておくべきです。

以下、オプジーボ添付文書より重大な副作用を抜粋してみます。
・間質性肺疾患・重症筋無力症、筋炎・大腸炎、重度の下痢・1型糖尿病(劇症1型糖尿病を含む)・肝機能障害、肝炎・甲状腺機能障害(甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、甲状腺炎など) ・神経障害(末梢性ニューロパチー、多発ニューロパチー、自己免疫性ニューロパチー、ギラン・バレー症候群、脱髄など)・腎障害(腎不全、尿細管間質性腎炎など)・副腎障害(副腎機能不全など)・脳炎・重度の皮膚障害(中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、多形紅斑など)・静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症など)・インフュージョン・リアクションなど


これまでに、死亡例も出るほどの重篤な副作用も報告されています。したがって、誰にでも気軽に扱える新薬ではありません。現状では、「抗がん剤治療に十分な知識・経験をもつ専門医師のもとで、緊急時に十分対応のできる医療施設で使用するよう」に警告されています。

しかし、近藤氏のロジックを当てはめると、こんなにも怖い副作用がたくさん並んでいるからオプジーボを使用すると殺される、ということになるのでしょうか。
案の定、最近の著作 『がん患者よ、近藤誠を疑え 』 (2016年 日本文芸社) の中には次のような記述がみられます。


(「夢の新薬」が引き起こす)免疫暴走が人体に対していかに恐ろしい状況をもたらすかは、免疫暴走によって発症する膠原病、重症糖尿病、間質性肺炎などの疾患を見れば一目瞭然です。「免疫抗体薬はがん細胞を選択的に攻撃する」などと宣伝されていますが、実際には、抗がん剤と同じく「ピンポイント爆撃」どころか「絨毯爆撃」なのです。

 

少し観点を変えてみます。近藤氏が元放射線科医であることから、三大治療である手術、抗がん剤治療、放射線治療の中でも唯一、放射線治療だけは肯定しています。手術や抗がん剤には多大なリスクがあるから近づいてはいけない、という主張を繰り返すのですが、当然ながら放射線治療にも副作用リスクは存在します。

リスクがあるから手術や抗がん剤は否定される、というロジックに従うのであれば、放射線治療に対しても同様な議論が必要になってきます。X線が照射される場所(臓器)、範囲、照射線量が副作用症状の強さに影響し、また時期によっても急性期(照射開始〜6ヶ月以内)副作用と 晩期(6ヶ月以降)副作用があります。
晩期でひとたび症状が出現すると重篤な状況に陥るリスクが高まります。以下に代表的な副作用を列挙してみると

 

  • 急性期では、頭痛、耳痛、脱毛、嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、倦怠感にみられる放射線宿酔、造血器障害 (白血球減少、血小板減少)、放射線皮膚炎、放射線粘膜炎(口内炎、咽頭炎、食道炎、腸粘膜炎)、急性浮腫(脳浮腫、声門浮腫)、放射線肺臓炎、膀胱炎、生殖能の変化など
  • 晩期では、難聴、顔面神経麻痺、脳機能障害、下垂体機能低下、白内障、網膜症などの視力障害(失明含む)、唾液腺障害、難治性皮膚潰瘍、消化管潰瘍、気管狭窄、食道狭窄、心筋障害(心不全)、肺線維症、末梢神経障害、関節炎、骨壊死、直腸炎、尿路障害、脊髄症、不妊、二次発がんなど


しかしながら、上記のような副作用リストを誇大に強調して、放射線治療を頭ごなしに否定する医師は私の周りにはいません。適切な放射線治療によって、多くの患者さんが利益を得ているのを実際に現場で診て知っているからです。

しかし中には、放射線治療の効果がまったくみられないケース、重篤な合併症が起きてしまうケースも少なくありません。中には不運にも死亡するケースもあるでしょう。ということは、放射線治療も手術や抗がん剤と同様に、リスクとベネフィットのバランスが考慮されながら慎重に実施されているわけです。

そして、副作用があるとはいえ、主作用のおかげで恩恵を得ている多くの患者さんがいる事実を決して無視してはなりません。

 

もし、近藤氏の推奨する 「がん放置療法」 というものによって、低リスクが一時的に約束されたとしても、リターンが大きいという話は一切してくれません。また、患者さんにとっての生活や人生を配慮したときに、本当に低リスクがずっと担保され続けるのか、あるいは、長期的にどのようなリターンが得られるのか、という話も一切聞こえてきません。

近藤言説のみならず、リスクだけをことさら大きく強調して「○○反対」とヒステリックに主張し、リスクがゼロでないと気がすまない 'ゼロリスク・シンドローム' というものがあります。このような思考停止と近藤言説がうまくシンクロ(共鳴)することで、いくら '嘘' であっても社会の中で容易に溶け込んでしまう病理も認識しておく必要があるのかもしれません。

 

最後に、以前『週刊朝日』(2013年 6月21日号) で近藤氏は次のように述べています。

僕が、がん研究に費やした時間は約10万時間。それだけの勉強量で、何万本という論文を読んでも、抗がん剤で人を救えたという報告はない。これは効かないと断定してもいいでしょう。

 

現在も闘病中の小林麻央さんもそうですが、がんと明るく向き合うために、がんと上手く共存するために、抗がん剤治療をいま現在、実際に受けている患者さんたちは、これを聞いてどう思われるでしょうか。中心と考えられるべきは、近藤氏の主観や勉強量のようなものではありません。いちばん大切なのは、がんを抱えている患者さんの主観です。救われていると実感する主役は、近藤氏ではなく患者さんのはずです。

 

次回に続きます。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください