大場大のブログ "セカンドオピニオン"

がん治療専門医による、あくまでも個人的な「つぶやき」ブログ

近藤誠氏の嘘を明かす⑤ -謎のがん再発・死亡の法則性-

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これは、近藤誠氏の思い込みによって描かれた「がん放置療法」による生存曲線イメージ図です。

なんと、近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来では、このイメージ図を見せながら、患者さんたちに「がん放置」を奨めているそうです。よく見ていただくと、具体的な対象は不明。時間のスケールもなく、放置によって生存率 100 %をパラレルに維持できている期間もどれほどなのか不明です。

 

固形がんで抗がん剤を標準治療とするのは間違いです。抗がん剤には患者を延命させる力はないのです。なぜそう言い切れるのか。抗がん剤の臨床試験結果が教えてくれます。臨床試験は、延命効果を確認する最終手段ですが、試験結果では、抗がん剤に延命効果は認められない。(『抗がん剤は効かない』2011年 文藝春秋より)

 

近藤氏は、「抗がん剤は効かない」とする根拠は、'ランダム化比較試験' の結果にあると説くわけですが、ほとんどが次の二つの理由に収斂され、それ以外について議論を深めようとはしません。

  • 生存曲線の形が奇妙
  • 利益相反

後者については、確かにそのような問題は完全には払しょくされないのかもしれません。しかしだからといって、すべての結果を捏造だ、陰謀だ、ということでは生産的な議論をすべて壊してしまいます。したがって、この問題については後日取り上げることにして、前者について本ブログでしっかり考察してみます。

 

「生存曲線の形が奇妙だ」

近藤氏によって、そう判定されてしまった途端、生存曲線データに人為的操作が加わっているものとして裁かれてしまいます。そしてこう結論付けます。その臨床試験は「インチキ」だと。その根拠はどこにあるのでしょうか。

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前提として、治らない患者たちの生存曲線は、図1-1のように漸減し、左下方に向かって凸形になることが重要です(この形を指数関数曲線という)。このルールに例外はなく (Cancer 1986; 57: 925)、もし指数関数曲線と違った形を示すなら、何らかの人為的操作が加わったと考えられます。(『抗がん剤は効かない』より)

 

「生存曲線が指数関数曲線になる理由は、被験者の死亡や再発には一定の法則性がある 」

この命題は、近藤誠理論の要となっています。上記参照にもある 1986 年の Cancer 論文(Harris JR, et al. Cancer 1986; 57: 925-928)が彼にとっての根拠だと明示されているのですが、それって本当なのでしょうか。その論文内容について吟味してみます。


先ず、留意しなくてはいけないのは、この Cancer 論文はあくまでも「仮説モデル」を用いて議論されていて、検証的な論文ではないということです。然るに近藤氏によって「例外はない」と強い口調で結論づけられている「生存曲線は指数関数曲線にならなくてはいけないルール」など、実はどこにも記述されていません。この時点ですでに客観性を失いつつあります。

さらにこの論文著者である Harris 先生の主張は、むしろ放置療法を提唱する者への警告にも受け取れる内容となっていることを先に申し上げておきます。

 

この論文に掲載されているグラフについて説明するとこうなります。

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かりに年毎25%の死亡発生リスク (ハザード) が変わらないと仮定した場合、言いかえると全時点を通じて死亡発生リスクが常に25%で一定であると仮定するならば、グラフAのように理想的な指数分布を示す生存曲線になりますよ、というあくまでも仮説レベルの話が示されています。

これの対数をとると、グラフBのような直線となり、一定の死亡発生リスク25%がその直線の「傾き」としてわかりやすくなります、という便宜的なモデルを置いているに過ぎません。

 

ところがなぜか、近藤氏はこの情報を盾にして「乳がん患者の死亡発生リスクは常に25%である」といつの間にか一般化してしまいます。とんでもない論理の飛躍です。

論文筆者である Harris 先生は、実際には次のように述べています。

 

このような理想的な生存曲線は、単純過ぎて、実際に治療を受けている多くのがん患者さんの生存パターンを示すものではないだろう。とくに、乳がん患者の自然史(経過)は、より複雑な生存パターンを示すはずだ。

 

がん治療を受けた患者集団を長期間追跡していくと、死亡発生リスクが時系列の中でしばしば変化する、ということをわかりやすく示すために、例として今から約100年前に遡る1920年代から70年代にかけてハルステッド手術を受けた当時の乳がん患者集団の古い長期追跡データが使用されています。

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死亡発生リスクを5年毎に抽出した上記グラフで筆者が強調したかったのは、手術後10年目を境にグラフ(実線)の傾きが変化しているという事実です。手術をしてから10年目までの死亡発生リスクが10%であったのに対し、10年目以降、傾きが緩やかになって 2-3%に落ち着いています。理由は、手術後10年までは、当時の手術による治療関連死亡や再発死するリスクが高い時期が続き、それがある程度落ち着いた後は真に治癒に向かっていく患者集団の低い死亡リスクをみているからでしょう。

 

この例が、たまたま乳がん手術データを用いた検討であったことから、近藤氏は「転移のために治らないがん患者集団」のみならず、「手術で治せる患者集団」の生存曲線に対しても、'素直な指数関数曲線' に近似した形になるのが前提だと、勝手にルール化しています。近藤氏が、「臓器を切り刻む犯罪的な手術」だと称してやまない昔のハルステッド手術の死亡発生リスクを自らのルール基準に置いてしまう理由がわかりません。

 

すでにハルステッド手術が行われていない現在においても、乳がん手術を受けた患者集団の生存曲線が昔の死亡パターン (約50~100年前) に近似されないといけない、と一般化してしまうのはいかがなものでしょうか。

しかも、乳がんだけの話にととまらず、胃がんや大腸がんの手術に対しても突然飛躍させて、このロジックを当てはめようとします。

ちなみに、この Cancer 論文が報告されてからすでに30年以上たった現在、治癒が目指せる乳がんについて、昔のハルステッド手術よりもより安全な手術実施のみならず、薬物療法の進歩によって、治療成績は大きく改善しています。

前述した Harris 先生のコメント通り、生存曲線はシンプルな形にはなりえず、死亡発生リスクも時系列によって変化することがわかっています。それを示すある論文データを紹介します。

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上図は、ドイツのグループによって行われた乳がんの臨床試験で得られた手術+ 抗がん剤治療の生存曲線です(HessKR. & Levin VA. Clin Cancer Res 2014; 20: 1404-1409)。しかしながら、近藤氏の要望するような指数関数曲線を描いてはいません。なぜならば、生物統計学者の分析によると、下図に示すように、時系列とともに死亡発生リスク(ハザード)比がたえず変化しているからです。Cancer 論文の仮説モデルのように、シンプルな一直線にはなっていないことがおわかりでしょう。これが、実際の現場の生データです。


Cancer 論文の話に戻ります。がん治療を受けた患者集団は、ある時点で死亡発生リスクが変化するということをふまえて、次の仮説グラフが論文の中で登場してきます。おそらく、これがもっとも重要な図だと考えられます。

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説明すると、という治療によって、3年目くらいの早い時点まではグラフの傾きが急に落ちていますが、それを越えると傾きは緩やかになっています。一方で、という治療は、最初は治療と比較して傾きは緩やかで死亡発生リスクは確かに低いようです。しかし、長期間の追跡で全体を俯瞰してみると、治療の方が、生存率で逆転して上に位置しています。

もしかりに、「治療 vs C治療」の比較がされたときに、評価が3年目くらいまでの早い時点で行われてしまうと、グラフが上に位置する治療の方に軍配は上がります。しかし、実際には患者に真の利益を与えているのは治療の方です。

早い時点に起きたリスクだけを切り取って治療を否定するやり方は意味がないと Harris 先生は論じています。そして、この治療にみられる現象は、手術のそれによく似ているとされています。この考察は一体何を意味するのでしょうか。


ここで、「がん放置療法」について、考えてみます。冒頭の近藤氏作図について、'放置' はリスクを恐れて何も施されないわけですから、最初のごく短い期間だけを切り取れば、本当にパラレルな直線になるかは別として、死亡発生リスクは、確かに治療のそれよりも瞬間的に低くなるケースはあるかもしれません。

しかし、長い期間にわたって耐えられるやり方なのでしょうか。本当に「低リスク高リターン」をパラレルに最後まで実現させてくれるのでしょうか。早い時期では見かけ上、リスクがなさそうにみえても、時間がたつにつれて、死亡発生リスクが一気に高まらないかと危惧します。

 

最後に、Cancer 論文は次の文章で締められています。

最初に訪れる死亡発生リスクを遅らせたり、軽減することを示すデータには、絶対的な(もっとも大切な)目標である患者さんの生存利益には意味をもたないだろう。まったく価値がないとは言わないまでも、患者の治癒を目指すこととは別である。翻って、治療することで最初に死亡リスクが存在するのは否めないが、長期的には多くのがんサバイバーを生み出すであろう。

 

近藤理論にとって重要な根拠のはずだった Cancer 論文の主旨は、実は近藤氏の恣意で解釈が勝手に曲げられていたことが判明しました。

さらに、論文著者である Harris 先生は、一時のリスクを避けるだけの「放置」に対する警告とも受け取れるようなメッセージまでも残しています。 結局すべては、近藤氏の単なる主観であったわけです。

冒頭に示した、近藤誠セカンド・オピニオン外来で使用されているグラフを Harris 先生が見られたら、さぞかし嘆かれることでしょう。これで、すべての客観性を失ってしまいました。

 

推察するに、手術や抗がん剤の効果を是が非でも認めたくない「立場」をとる近藤氏にとって、治療によって治癒する出来事や、死亡発生リスクが良い方向に変化することを肯定してしまうと、近藤誠理論が土台から成り立たなくなるからでしょう。しかし、それでは単なる 'エゴ' だということを申し上げて、本ブログを閉じたいと思います。

 

次回に続きます。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

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  • 作者: 大場大
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2016/11/12
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