大場大のブログ "セカンドオピニオン"

がん治療専門医による、あくまでも個人的な「つぶやき」ブログ

近藤誠氏の嘘を明かす⑨ - 川島なお美さんへのセカンド・オピニオンを総括する -

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今はただ、彼女の人生の貴重な一瞬に立ち会った医師として、心静かにご冥福をお祈り申し上げるばかりです。

 

そのように結ばれた近藤誠氏の記事が、文藝春秋2015年11月号に突如掲載されました。最近の著作活動では必ず登場してくるジャーナリスト 森省歩氏との掛け合い記事です。

これまで著名人が亡くなられると、必ず後から声をあげる常套手段を繰り返してきた近藤氏ですが、女優 川島なお美さんの場合、生前に、直接セカンドオピニオンを提供していたというものでした。


法律上、亡くなった方は医師の守秘義務の対象ではなくなりますが…

 

そんな前提を置くことで、たった一度、わずか20分程度話しただけの医師が、亡くなられた川島さんの個人情報を、ご本人やご家族の同意確認もなく公にするのは倫理的にいかがなものでしょうか。法に抵触しないから許されてよいという話にはならないと思います。

古くは、『ヒポクラテスの誓い』において、「治療の機会に見聞きしたことや、治療と関係なくても他人の私生活について洩らすべきでないことは、他言してはならないとの信念をもって、沈黙を守ります」と述べられています。それを引き継ぎ、1948年に採択されたジュネーブ宣言の中でも、医師の守秘義務について、次のように明記されています。

「私は、私への信頼のゆえに知り得た患者の秘密を、たとえその死後においても尊重する」(日本医師会ホームページ より)


川島さんが患った肝内胆管がんは、診断された当初はおそらく治癒率が高かった早期段階の状態でした。それにもかかわらず、近藤氏はセカンド・オピニオンを求めた川島さんの病気について本来あるべき医師としての公正な説明責任を怠り、次のように意見したそうです。

 

(近藤氏)「胆管がんだとしたらとてもやっかいだね。2、3年は元気でいられるけど、ほうっておいたらいずれ黄疸症状が出て肝機能不全になる。手術しても生存率は悪く、死んじゃうよ」

ー 言葉が出ませんでした。
きっと、この先生の前で泣き崩れる患者さんは多々いたはず。

(『カーテンコール』 川島なお美・鎧塚俊彦 著 2015年 新潮社 より)


通常の胆管がんと肝内胆管がんはまったく考え方が異なる疾患群です。また、発見当初の川島さんの肝内胆管がんの大きさは径「1.7 cm 」だったという記載があります。2 cm に満たない単発の肝内胆管がんは、予後良好です。このことは、2009年時の『原発性肝癌取扱い規約』(第5版補訂版 金原出版)の中でもすでに明記され、多くの専門家によって認知されている医学的事実です。適切な手術をこのタイミングで受けていれば、高い確率で「治癒」を目指せた状況であったにもかかわらず、近藤氏は肝内胆管がんの手術について、

  • 合併症も含めてバタバタと亡くなっていく
  • メスを入れたところにがん細胞が集まり、急激に暴れ出すことが多々ある

これらは決して、何のがん疾患で、どのような状況に対して、最適な治療方針は何なのか、という各論としての話ではなく、自身の決まった常套文句を一方的に繰り返しているだけです。

さらに後付けで、次のようにも述べています。

肝内胆管がんはほとんどの場合、肺や肝臓などにすでに転移がひそんでいます。したがって手術をしても、肝臓や腹膜にがんが再発するし、かつ、がんの増大に勢いがついてしまうのです。

(『がん治療の95%は間違い』2015年 幻冬舎新書 より)


近藤氏は、おそらく慶應義塾大学病院時代も含めてこれまでに肝内胆管がん患者をまともに診られた経験はないはずです。 それにもかかわらず、挙句には次のような説明までしていたそうです。


ぼくは「ラジオ波なら手術をしないで済むし、1ショットで100% 焼ける。体への負担も小さい。そのあと様子を見たらどうですか?」と提案しました。「手術しても十中八九、転移しますよ」ともお伝えしました。むしろ手術することで転移を早めてしまう可能性もあるからです。

(川島なお美さん 手術遅かったとの指摘は間違いと近藤誠医師NEWSポストセブン)


ラジオ波焼却術 (RFA) が、低侵襲だからという理由のみで、手術で治癒が目指せる肝内胆管がんに薦められています。これはとんでもないセカンド・オピニオンだと言えます。肝内胆管がんは、リンパ節転移のリスクが非常に高いため、専門性の高いリンパ節郭清手術を受けることで「治癒」できるかどうかが議論されるべきがん疾患だからです。


治癒を目指した時に根拠がまったくない RFA という選択肢が、近藤氏の嗜好 (好き嫌い) のみで勝手に提示されてしまうのでは、「治りたい」と願っていたはずの川島さんも正しく意思決定できるはずがありません。

案の定、次のような困惑した川島さんの声があります。


一般的な肝臓がんとは違い、胆管がんはラジオ波に適応しないという事実。

腫瘍以外の血管まで傷つけてしまうリスクがあるとは.....。

M先生(近藤氏)は確かに「私の患者で、胆管がんの人を何人もラジオ波専門医に送り込んだよ」とおっしゃっていましたが、あれって一体なんだったんでしょうか?

(『カーテンコール』より )


東京大学医学部附属病院を中心とした肝臓疾患治療を専門とする多施設オールジャパン・データ (Sakamoto, Y. et al. Cancer 2016; 122: 61-70) に、発見当初の川島さんのケースに相当する、大きさ 「2cm 以下」の肝内胆管がん手術成績が示されています。それに従うと、適切な手術をした後に転移した割合は「27例中0例 (0%)」という結果でした。
近藤氏が言うところの、どこが「十中八九」なのでしょうか。手術リスクを煽りたい主観のみで、とんでもない説明を川島さんにしていたということです。


闘病手記『カーテンコール』(新潮社) の序章には、以下のような辛辣なメッセージが綴られています。


それからもうひとつ。

様々な著書で有名なM先生 (近藤氏) の存在です。

先生の本でためになったこともたくさんあります。即手術しなかったのも、抗がん剤や放射線治療に見向きもしなかったのも先生の影響かもしれません。

でも、がんは放置さえすれば本当にいいのでしょうか?

何もしないことが最良の選択なのでしょうか?

検診にも行かない。がんを発見することも無駄。知らぬが花だ……。

私はそうは思いません。

がんかもしれないと診断されることで、人生真っ暗になってしまったとしても、それは一瞬のこと。

目からウロコの「気づき」をたくさんもらえて、かえって健康的でいきいきした人生に変わることだってある。それは、自分の病への向き合い方次第なんです。

ただただ放置し、あきらめて天命をまつのが一番賢く穏やかな生き方という理論。経験者としてはそれがすべて正しいとは思えません。

がんと診断されたら放置するのではなく、その対処いかんでより健全で、充実した生き方が待っている。それは、私ががんになってみて初めてわかったことなのです。

がんと診断された皆さん、決して「放置」などしないでください。まだやるべきことは残っています 。

年に一回受けていた人間ドックで、運よく早期に発見された肝内胆管がんであったにもかかわらず、適切な病状説明、適切な治療をタイミングよく受けることが叶わなかったことへの悔恨の気持ちを感じ取れます。


川島さんの命を賭した切実な心の叫びを聞いて、当の近藤氏はどう思われたのでしょうか。それ以降の彼の主張にはなんら大きな改善点がみられていないようです。

また、客観的根拠を著しく欠いた近藤氏の言論活動を、一流出版社 文藝春秋は、一体なぜサポートし続けるのでしょうか。不思議でなりません。

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冒頭の『文藝春秋』記事のタイトルには、「川島なお美さんはもっと生きられた」と付されていました。しかしはっきり申し上げると、虚偽に溢れた近藤言説の影響を強く受けてしまったことで「治るチャンスを逸してしまった」ということでしょう。

 

あらためて、川島なお美さんのご冥福をお祈り申し上げます。そして、同様な犠牲者が出ないことをただ願うばかりです。

 

P.S. 本日発売の『週刊新潮』(2016年12月8日号) に、正しいセカンド・オピニオンのあり方についての拙記事が掲載されました。よかったらご覧ください。

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次回に続きます。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

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  • 作者: 大場大
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2016/11/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)