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大場大のブログ "セカンドオピニオン"

がん治療専門医による、あくまでも個人的な「つぶやき」ブログ

DeNA問題で考える不十分な法的規制 -出版メディアの責任と医療広告について-

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ここまで騒ぎが大きくなった背景には、DeNA がプラットフォームとメディアの垣根を曖昧にし、自らに都合の良い部分だけを「いいとこ取り」していたことにある。WELQ はサイトの注意書きに「情報に責任を負わない」「判断は利用者の責任」と明記していた。つまり、WELQ の情報を見て健康被害が起きても何の責任も取らない、と堂々とうたっていた。その表向きの理由は「プラットフォーム」だからだ。しかし WELQ  の実態は、プラットフォームを隠れみのにしながらも、自らの意図で記事を作り上げるメディアだったのだ。

(中略)

プラットフォームであれば、掲載されている情報の責任は原則として投稿者にある。サービス事業者を守るための法律として定められたプロバイダ責任制限法に従い、問題が発覚したら事後対応すればよいとされている。一方のメディアはそうはいかない。記事の内容に責任を持つべき立場にあり、紙の雑誌などで不適切な情報を掲載し続ければ、編集部の刷新や社長交代までつながる可能性もある。

プラットフォームを「隠れみの」 DeNA大炎上の本質 :日本経済新聞

 

上記の記事 (日本経済新聞 2016年12月8日付) を書かれた藤代裕之氏によると、今回のDeNA問題の本質は、DeNAが運営する健康・医療キュレーションサイト「WELQ」というサービスが情報流通の基盤となる「プラットフォーム」なのか、自ら情報を生み出してその内容に責任を追う「メディア」なのか、その境を曖昧にしながら、自らの意図 (お金儲け) で記事を都合よく作り上げる、ある種のメディアだったという点にあると指摘されています。

 

本ブログやこれまでの拙著でも度々問題視している『近藤誠理論』について、今回のDeNA騒動にあるロジックを当てはめてみるとどうなるでしょうか。

その内容は、売れるからという理由のみで、リスクを誇大に煽り、都合のよい論文データをつまみ食いしているだけ。

ファクトを歪めた検証のない個人の主観を、さも教養の如く垂れ流し続ける、れっきとした出版メディアは、果たして責任を問われないのでしょうか。

近藤氏の言説を信じたがために、後戻りのきかない不幸な転帰を辿る患者さんは後を絶ちません。

また、昨今の歪んだ 「子宮頸がん (HPV) ワクチン問題」報道のあり方やエセ医学本の出版に勤しむ数々の出版メディアも、今回のDeNA問題と根っこはまったく同じであり、「メディア」としての営為であれば、より悪質ではないかと思われます。

 

さて、DeNA問題を通じてわかったことは、インターネット空間は患者さんを間違った方向に誘導するリスクのある世界だということです。そこで、今回のブログでは、インターネット上で展開されている ‘医療広告’ の問題について取り上げてみます。

 

*以下、新刊『大場先生、がん治療の本当の話を教えてください』(扶桑社) からの抜粋となります。

 

薬事法の規制が働くのは、規制当局で承認された薬に対してのみです。そのため、クリニック免疫療法のように、効果の不確かなモノに高額な費用が発生したとしても、それ自体は法的に罰則を受けにくい状況にあります。また、患者さんが亡くなっている場合が多いため、裁判にもなりにくいのでしょう。

これらのクリニックに対して別の角度から問題だといえるのは、「広告のあり方」についてです。「営利を目的として、医療に関する広告により患者さんを不当に誘引することは、厳に慎むべきである」という基本的な考え方のもと、厚労省から「医療機関ホームページガイドライン」が出され、2013年9月2には、「医療広告ガイドライン」が更新されました。

しかし現状では、ホームページは法の規制対象とはみなされていません。ただし、ホームページと連動している、バナー広告のように、「検索サイトの運営会社に高額な費用を支払えば上位にヒット表示される広告」については、規制対象になることを知っておいてください。この項では、今後もしかしたらホームページも法規制の対象になるかもしれないので、それらを意識したうえでお話ししたいと思います。

「医療広告ガイドライン」で明記されている「禁止される広告の基本的な考え方」として、医療法(昭和23年法律第205号)第6条の5第3項の規定により、内容が虚偽の広告は罰則付きで禁じられています。また、医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第1条の9には、以下の広告が禁止されています。抜粋してみますと、

  1. 他の病院、診療所又は助産所と比較して優良である旨を広告してはならないこと
  2. 誇大な広告を行つてはならないこと
  3. 客観的事実であることを証明することができない内容の広告を行ってはなら   ないこと
  4. 公の秩序又は善良の風俗に反する内容の広告を行つてはならないこと

わかりやすく言い換えると次のようになります。 (医療広告ガイドラインより)

  • 比較広告
  • 誇大広告
  • 広告を行う者が客観的事実であることを証明できない内容の広告
  • 公序良俗に反する内容の広告

医療広告の禁止事項(医療法)に照らし合わせると、ホームページが今後広告としてみなされるのであれば、がん治療を標榜しているクリニックのほとんどが、規定に抵触しているのではないでしょうか。具体的には、次のような表現がホームページ上に掲載されていたら、そのクリニックは ‘怪しい’ と思ってみてください。

 

(例) 治療の前後で「がんが消えた」あるいは「縮小した」CT 写真などを掲載

治療の効果に関することは広告可能な事項ではなく、治癒や効果を保証すると患者さんに誤認を与える恐れがあり、誇大広告に該当するかもしれません。

 

(例)「世界初の○○療法」「国内初の△△治療」

このような最上級を思わせる文言は受け手である患者さんを誘因し、本当は治療として成り立っていないのに高額な支払いのみが生じてしまうリスクがあります。また、「世界初」といわれても、客観的事実であることが証明できない事項がほとんどなので注意が必要です。

 

(例)「都内屈指の治療件数」「○千例の投与経験」

効果の担保が不明な治療であるにもかかわらず、多くの治療件数を強調することによって、優良なクリニック・医療機関であるイメージを暗示させるのは、禁止されている比較広告に該当するかもしれません。また、「○千例、○万例」とはいっても、そのうちの何割の患者さんにどのような効果がみられたのかという、最も大切な客観的データが存在しない場合がほとんどです。つまり、効果を保障するという誤認を与えかねない誇大広告、場合によっては虚偽にも該当するでしょう。

 

(例)「○○療法は抗がん剤と違って体に優しく、効果が高い」

科学的な根拠が乏しい治療法にもかかわらず、抗がん剤のリスクを強調することで、国民・患者の不安を煽り、抗がん剤以外のものへ誘導する。さらにはデータもないのに有効性を強調することで、不当に○○療法に誘導しているといえます。

 

現行の「医療法」ではホームページは規制の対象ではないにしても、上に列挙したような広告は、医療法第6条の5の規定違反に抵触し得るかもしれません。もし見かけた場合は、厚労省ホームページに添付されている「医療広告ガイドライン」内にある「報告用紙フォーム」に必要事項を書いて、厚生労働省医政局総務課あて (FAX 03-3501-2048) にご連絡ください。

 

前述のような広告は、実は「医療法」以外の法令にも抵触する可能性があるので紹介しておきます。1. は厚労省に、2. は消費者庁にご連絡ください。

  1. 薬事法 (昭和35年法律第145号) 同法第68条の規定により、承認前の医薬品・医療機器について、その名称や、効能・効果・性能等についての広告が禁止されており、たとえば、そうした情報をホームページに掲載した場合には、当該規定により規定され得ること。
  2. 不当景品類及び不当表示防止法 (昭和37年法律第134号) 不当景品類及び不当表示防止法第4条第1項の規定により、役務の品質等又は取引条件について、一般消費者に対し、実際のもの又は事実と異なり競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示等(以下「不当表示」という)が禁止されており、たとえば、不当表示に当たるものをホームページに掲載した場合には、当該規定等により規制され得ること。

 

がんという病気は不確かなことが多く、いくら最善が尽くされても、必ずしも期待通りの結果に至らないことも少なくありません。絶対確実な治療やゼロリスクなどもありません。それらをしっかりと理解したうえで、身の回りに溢れる情報を批判的に吟味しながら、重要な意思決定が求められます。

 

今回の問題に対する記者会見で謝罪されていたDeNA会長 南場智子氏は、最愛の夫様のがん闘病生活を支えるために社長職を退任されています。 そして「がんに関するインターネット情報は信頼に足らない」ことをかねてより認識されていたそうです。であるならば、もし自身の家族に置き換えたならば、という気持ちにたって今後は正しい医療情報発信に努めていただきたいと切に願います。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

  • 作者: 大場大
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2016/11/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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