大場大のブログ "セカンドオピニオン"

がん治療専門医による、あくまでも個人的な「つぶやき」ブログ

近藤誠氏の嘘を明かす⑪ -医者を見たら死神と思え?子宮頸がん問題を総括する-

ビッグコミック (小学館) で連載中の問題漫画 『医者を見たら死神と思え』( 原作 よこみぞ邦彦、作画 はしもとみつお) 。近藤誠氏が監修を務め、自身の言説を忠実に漫画化することで、幅広い層への布教活動にも余念がありません。

現在発売中の最新号 (2016年12月25日号) 掲載タイトルは 「子宮頸がん」。その内容は、検診や子宮頸がんワクチン、そして早期治療の有用性をすべて否定する形で終えられています。

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(ビッグコミック 2016年12月25日号 小学館 より)

情報に疎い若い女性読者がこれを読んだときに、批判的吟味のできる方々が一体どれほどいるでしょうか。少なからずの悪影響を受けることは間違いありません。

小学館ならびにこの漫画制作スタッフたちは、売れること以外に一体何を ‘志’ としてこのような漫画を世に放っているのでしょうか。

 

子宮頸がんにまつわる、これまでの近藤言説にみられる問題ついては、過去にも本ブログで取り上げてきました。今回は、ちょうどトンデモ漫画が掲載中なので、あらためて彼の嘘を総括してみたいと思います。

 

少し前になりますが、写真週刊誌『FLASH』(2014年11月4日号 光文社)にセンセーショナルな記事が掲載されました。以下のような口調で、子宮頸がん検診を否定する内容でした。

「若い人で見つかっているのは、ほとんどがたいしたことのない上皮内がん」

「病院は、金儲けのためなら、平気で患者の子宮を奪いとる」

発言者は、近藤誠氏です。そして、彼は産婦人科医師のことを「子宮狩り族」とまで呼ぶ始末。 (『文藝春秋』2003年1月号)

 

子宮頸がんは、主に性交渉によってヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus:HPV)に感染することが原因で発生します。多くは自然に排除されるのですが、一部の女性には持続的な感染が引き金となり

軽度異形成→中等度異形成→高度異形成→上皮内がん→浸潤がん

という経路 (シークエンス) を辿ることがあります。

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1940年代に、「異形成+上皮内がん」は前がん病変 (CIN: Cervical Intraepithelial Neoplasia)として認識され、50年代頃からすでに前がん病変の段階で早期発見されることの重要性が唱えられてきました。

子宮頸がんは、若年女性にも発生するがんであり、20~30歳代の女性に発生する悪性腫瘍の第1位を占めています。日本では現在、年間1万人以上が新たに子宮頸がんに罹患し、約 3,000人もの女性が子宮頸がんで死亡しています。

女性一人ひとりの生活や人生を奪うだけではなく、初婚年齢が高齢化する中、少子化問題を抱えるわが国にとっては大きな社会問題としても捉えるべきです。

 

しかし近藤氏は、前記のような乱暴な表現を持ち出し、リスクを誇大に強調することで子宮頸がん検診や早期治療を否定してしまいます。そのような言論活動には、同じ医師として心底嘆かわしさすら覚えます。

 

今回の漫画にも出てくるのですが、『がん治療の95%は間違い』(2015年 幻冬舎新書) では下図が登場してきます。

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このグラフを見せながら、「30~34歳の女性に限ると、2011年の子宮頸がん罹患率が25年前と比べて7倍も増えているのに死亡率は変わっていない、だから子宮頸がん検診は無意味で放置がよい」と結論付けます。

しかし、このグラフ集団のすべてが、検診で発見された子宮頸がんデータではありません。もちろん、がんが発見された後、放置されたデータでもありません。しっかりと治療が介入された結果、死亡率が抑えられていると解釈するべきです。

これまでの子宮頸がん検診受診率はわずか20~30%前後に過ぎず、このデータだけを見て検診の是非を問う議論はナンセンスだと言えるでしょう。

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(ビッグコミック 2016年12月25日号 小学館 より)

今回の漫画の中で、女医に扮する登場人物が「子宮頸がん検診の貢献度は不明」と患者さんに説明しています。「医学界で最も権威のある雑誌ランセットでそう発表されている」だから真理に値すると。それは本当でしょうか。

 

英国では、1988 年に国策として子宮頸がん検診を広く国民全体に普及させたことで、死亡リスクと直接関係のある「浸潤がん」の罹患率を下げることに成功しています(BMJ 1999; 318: 904-908)。

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ちなみに、もし検診推奨を怠り、国民を近藤氏が奨めている「放置」させた場合、子宮頸がんによる死亡者数が増加の一途をたどるだろうという生命リスクについてもしっかり検討されています(Lancet 2004; 364: 249-256)。このエビデンスもその「ランセット」からの報告です。

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近藤氏が頻用するグラフで、「過去と比較して7倍も増えた子宮頸がん」とは「上皮内がん」と「浸潤がん」の足し算になります。直接死亡リスクに繋がらない上皮内がんを多く含んだ罹患率と、30~34歳に限った対象で同じ時点で死亡率を比較することに、どれほどの意味があるのでしょうか。まさに近藤氏の恣意が感じられます。

もし、30~34歳に相当する女性が子宮頸がんとなり、適切な治療を受けないまま10~30年放置されるとどうなるのでしょうか。浸潤がんとなって死亡リスクは後でどうなるのでしょうか。そうした「時系列」の議論が本来は必要なはずです。

 

しかし近藤氏は、今回の漫画でも「(上皮内がんは)100人のうち99人は消える」と言い、次のように声をあげます。

僕もこれまで何人もの上皮内がんの放置経過をみてきましたが、上皮を超えて浸潤がんに進行した人はおらず、最長でも20年以上そのままです。がんが消えた人も2人います。仮に浸潤していても、1期の浸潤がんの大多数はがんもどきなので、検診で上皮内がんと診断されたものの99%はがんもどきといえます。(『近藤誠の「女性の医学」』2015年 集英社 より)

 

産婦人科医でもない彼がわずかな体験談のみでそのように一般化してしまってよいものでしょうか。

子宮頸がんの自然史について、上皮内がんが適切な治療を受けないで30年以上放置されると、実に30~40%が死亡リスクのある浸潤がんに移行したという研究データが報告されています(Lancet 2004; 364: 249-256 / Lancet Oncol 2008; 9: 425-434)。これも「ランセット」からの報告です。

近藤氏は、自身のストーリーに都合のよいデータのみを探し求め、他の情報をフェアに扱おうとはしません。

 

さて、上皮内がんが見つかったときに通常推奨されている円錐切除(子宮頸部を円錐状に小さく切除すること)に対して、今回の漫画の中でも患者さんにリスクを強調する表現がみられます。

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(ビッグコミック 2016年12月25日号 小学館 より)

近藤氏の常套手段として、リスクを煽る時は、登場人物のセリフのように数字を一切示しません。

〝円錐切除〟という手術で子宮を温存するのが主流になってきてはいます。しかし温存といえども、円錐切除で不妊症になる可能性は、きわめて高い──。(『近藤誠の「女性の医学」』集英社 より)

 

きわめて高い? 果たしてそれは本当なのでしょうか。

英国より15本の医学論文をレビューした報告があります。それによると、円錐切除による不妊リスクは1.29倍、妊娠後の総流産リスクは1.04倍と若干のリスクは高まるものの、統計学的には未治療と比べて差がないという結果でした (BMJ 2014; 349: g6192)。

 

ほかのがん検診同様、子宮頸がんも百害あって一利なしです。将来、妊娠・出産を考えている人であればなおさら、受けないことをおすすめします。検診で初期のがんが発見された場合、僕は経過観察していましたが、それを引き受けてくれる医者は少ないでしょう。 自主的に放置して、不正出血という症状が出たら婦人科に行く。これがもっとも合理的ですが、実行できる人は少ないかもしれませんね。(『近藤誠の「女性の医学」』集英社 より)

 

女性の健康を理屈一辺倒で語る、医師として信じがたいメッセージだといえます。

短期的な「不妊リスク」を煽る一方で、「自主的に放置して、不正出血という症状が出たら婦人科に行く」という発言には、「長期的にみると放置することのほうが極めて高い生命リスクを背負う」ことへの配慮がまったく感じられません。

良識ある産婦人科医ならば、近年増えている若い子宮頸がん患者さんの不妊や流産といった妊孕 (にんよう) 性リスクの問題について、必ず熟慮されているはずです。治療の際には、十分なインフォームド・コンセントも行き届いていることでしょう。

 

さて、〝マザーキラー〟と称される子宮頚がんの死亡率を減らすためには、一体どうしたらいいのか?という問いに対して、

  1. 科学的根拠に基づいて子宮頸がん検診の受診率をアップさせる
  2. さらに上流でがん発生を抑えるために、HPV感染を予防する子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)接種を推奨する

という解決策が検討されるのは当然のことです。

後者について、HPV感染という引き金が原因のがんだからこそ、HPVワクチン接種を行い、ウイルス持続感染自体を防ぐことで、前がん病変を無くし、結果的に子宮頸がんの発生リスクまでも阻止できると考えるのは、ごく自然で理知的なふるまいだといえます。

 

しかし、近藤氏は以下のように声をあげます(『近藤誠の「女性の医学」』集英社より)。

  • 僕は何人もの母親たちから、このワクチンを娘に打たせるべきか相談されましたが、きっぱり「NO」と返答。がん予防には無意味なうえ、副作用のリスクが大きいからです。
  • がんを予防しない、一生を台無しにするような重い後遺症を背負うかもしれない、そんな有害ワクチンを受ける必要は毛頭ありません。

 

2006年に米国においてHPVワクチンの使用が承認されて以降、2016年1月までに、WHO加盟国のうち65カ国で、国策プログラムとしてワクチン接種が推奨されています。しかしながら、日本では2013年4月にようやく定期接種が開始されたものの、ワクチン接種の後に

  • 身体の広範な痛み
  • 倦怠感
  • しびれなどの神経症状

に代表される重篤な副反応が報告されたことから、わずか2カ月で、「厚労省健康局から安全性が確認されるまでの間はHPVワクチン接種の積極的な勧奨を一時中止する」という勧告がなされました。

その後、厚労省の副反応検討部会で、平成21年12月から平成26年3月までに約338万人を対象として、HPVワクチン接種後のさまざまな副反応症状2,475例について徹底したデータ収集と解析、追跡調査、専門家による議論が行われました。

結果、問題視されていた慢性疼痛・運動障害等の症状と、HPVワクチン成分との間に、因果関係を示す根拠は認められなかったわけです。

また、重篤な副反応として報告された176例のうち、162例については神経学的疾患、中毒、免疫反応といった器質的な問題の可能性は否定されました。また、このような症状の発生リスクは、HPVワクチン10万人接種あたり1.5件という報告でした。

 

しかし、その間、一部のマスメディアは、ワクチン接種後の副反応で苦しむ少女の映像や記事を盛んに報道することで、HPVワクチンがまるで恐怖ワクチンであるかのように、リスクを誇大に煽る表現が繰り返し行われました。

さらには、多額の国家研究費を用いて、なんとしてでもHPVワクチンのリスクを証明しようとした結果、不正研究疑惑にまで発展した池田修一氏 (信州大学医学部教授) の問題も取り沙汰されています。しかし上記のマスメディアは、その一連の世界的スキャンダルにもなりかねない問題をいまだに公正に伝えようとしていません。

それを見かねてか、厚労省は以下のような見解を示しました (一部抜粋)。

厚生労働省としては、厚生労働科学研究費補助金という国の研究費を用いて科学的観点から安全・安心な国民生活を実現するために、池田班へ研究費を補助しましたが、池田氏の不適切な発表により、国民に対して誤解を招く事態となったことについての池田氏の社会的責任は大きく、大変遺憾に思っております。

そして、こう結んでいます。

厚生労働省は、この度の池田班の研究結果では、HPVワクチン接種後に生じた症状がHPVワクチンによって生じたかどうかについては何も証明されていない、と考えております。

 

現在、HPVワクチン接種が推奨されないままの状況が続いており、接種率はほとんどゼロに近いのではないでしょうか。このような事態は、先進国ではこの日本だけです。

 

免疫システムを破壊する恐ろしい副作用-おそらく、これらの副作用の多くは、ワクチンに添加されている〝アジュバント(免疫増強剤)〟が原因です。その成分は〝水酸化アルミニウム〟などの化学物質で、これらのアジュバントによって、本来なら体に侵入してきた異物を攻撃するはずの免疫システムが、自分の体を攻撃してしまう 〝自己免疫疾患〟を引き起こしてしまうことがある。(『近藤誠の「女性の医学」』集英社 より)

 

近藤氏は、ワクチンに添加されている 「アジュバント (免疫増強剤) の中毒」が重篤な副反応の原因だと言い切っています。

しかし、この問題はすでに解決しています。アルミニウムが添加アジュバントとして含まれているワクチンは、何もHPVワクチンだけではありません。安全に長年実施されているB型肝炎ウイルスをはじめ、肺炎球菌、破傷風、ジフテリアなどといった多くのワクチンにもアルミニウムが含まれています。したがって、すでに安全性については証明されているのです。

近藤氏の主張は、フランスの研究者グループによるワクチン接種部位の局所にアルミニウムが蓄積し、マクロファージという炎症細胞の浸潤が原因で、筋炎をはじめとするさまざまな全身症状を引き起こすという信憑性の乏しいケースレポート論文を探し出し、それを持論として取り込んでいるだけです。

近藤氏のような主張をする者は世界中にいるわけですが、前記理由によって完全に否定されているというのが本当の話です。

 

世界保健機構 (WHO) や国際産科婦人科連合 (FIGO) は、世界中の最新データ解析に基づき、HPVワクチンの安全性と有効性を繰り返し確認し、国家プログラムとしてのHPVワクチン接種を強く推奨しています。

実際の有効性を示す多くのエビデンスがある中で、ここでは2本のランダム化比較試験の結果を紹介します。いづれも追跡期間が短いデータであることをご了承ください。

HPVハイリスクタイプとされる 6型/11型/16型/18型 をカバーする「ガーダシル」というワクチンを接種した集団 5,305人とプラセボ(偽薬)を接種した集団 5,260 人を比較追跡した結果、ハイリスクタイプ16型/18型の前がん病変である中等度異形成(CIN2)の発生数に関して、ワクチン vs プラセボで 「0例 vs 28例」、高度異形成(CIN3)の発生数では、ワクチン vs プラセボで「1例 vs 29例」、上皮内がんでは、ワクチン vs プラセボで 「0例 vs 1例」という結果となり、前がん病変を 97~100% 阻止していることがわかりました (N Engl J Med 2007; 356: 1915-1927)。

次いで、HPVハイリスクタイプとされる16型/18型をカバーする「サーバリックス」というワクチンを接種した集団 7,344人と、プラセボを接種した集団 7,312人を比較追跡した結果、ハイリスクタイプHPV16型/18型の前がん病変であるCIN2の発生数では、ワクチン vs プラセボで「1例 vs 53例」、CIN3の発生数では、ワクチン vs プラセボで「0例 vs 8例」という結果となり、前がん病変を 98~100% 阻止していました (Lancet 2009; 374: 301-314)。

以上より、前がん病変であるCINが阻止できれば、円錐切除を受ける必要がなくなり、その先にある子宮頸がんにもならなくて済むわけです。

したがってHPVワクチンは女性の子宮を守り、女性の生命も守ります

 

一方、HPVワクチン接種の後に、因果関係がいくら証明されなくても、思春期の少女たちに何らかの原因不明な症状が出現し、今もなお苦しんでいるという事実は、重く受け止め、行政としても十分な救済対策が取られなければなりません。

しかし、蓋然性の低いリスクばかりに気を取られ、HPVワクチン接種の推奨中止が現状のまま続くようであれば、若い女性がワクチンによるがん予防の利益を受けられず、世界中で日本だけが孤立し、将来も子宮頸がん罹患率の高い国のままであることが危惧されます。

 

ゼロリスクでないと過剰な反応を起こしてしまう特有の病理として、なんと2016年7月27日付けで、HPVワクチン薬害訴訟が動き始めたようです。原告側弁護団の声明の中には次のように記されています。

 

HPVワクチンは、子宮頸がんそのものを予防する効果は証明されていません。一方で、その接種による重篤な副反応(免疫系の異常による神経障害等)が多数報告されています。

 

繰り返しますが、前がん病変であるCINが阻止できれば、その先にある子宮頸がんにもならずに済みます。CINが阻止できる効果は十分に証明されています。そして、かりにHPVワクチンが接種されていなくても、CINの段階で早くに発見されて適切な治療が行われれば子宮頸がんにならずに済むわけです。

そのように適切な対処が行われた結果として、先に紹介した比較試験では、がん発生率に関しては差を認めませんでした。

それを、「HPVワクチンは、子宮頸がんそのものを予防する効果は証明されていません。」と公言してしまうのは、科学を理解する力が乏しいのか、単なる詭弁に過ぎません。

HPVワクチン接種によって、多くの女性の子宮と生命を救えるはずの利益をないがしろにしてでも、因果関係も定かではない蓋然性の低い不利益をことさら強調して、観念のみで全体を悪と裁こうとする、まさに思考停止以外のなにものでもありません。

 

最後に、近藤氏によるがん検診不要論で何よりも問題だと思うのは、机上でグラフをみせながら数字やデータの出し入れ操作という作業に徹しているということです。グラフの中には、患者さん一人ひとりのさまざまな苦悩や無念な人生が、数多く含まれているということを決して忘れてはなりません。

医者を見たら死神と思え?

その医者とは、ほかの誰でもない近藤誠氏ご自身のことではないでしょうか。

 

次回に続きます。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

  • 作者: 大場大
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2016/11/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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