大場大のブログ "セカンドオピニオン"

がん治療専門医による、個人的な「つぶやき」ブログ

ホリエモンさん、意見広告になっていませんか?ピロリ菌と重粒子線の話

お正月休み中、モーニング (講談社) に連載中の人気漫画『インベスターZ』(著 三田紀房) を読んでみたところ、終始かなりトンデモな内容だったので本ブログで取り上げました。歯に着せぬ独創的な発言で、広く名が知られているホリエモンこと、堀江貴文氏が、最近、がん医療分野にも関心を示されているようです。今回の漫画も、フィクションとはいえ堀江氏の意見が大きく反映されている内容でした。

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昨年、ご自身が立ち上げられたピロリ菌ビジネスを契機に、医療本も出されています。どうやら彼にいろいろ助言をしている医療関係者がいるようですが、以下に示す強い表現の解釈には慎重さが必要です。

 

"胃がんの99%はピロリ菌が原因"

 

胃がんの原因が感染症?

堀江氏著作『むだ死にしない技術』(マガジンハウス社) の帯にも強調されているフレーズです。では本当に 'ピロリ菌' と '胃がん' の間に強い '因果関係' が成立するのでしょうか。

私も、内視鏡検査をしてピロリ菌感染が疑われる被検者に対しては、ピロリ菌チェックを薦めます。また、検査でピロリ陽性が判明したならば、除菌治療を推奨しています。その際には、目的として「胃がんになるリスク因子をひとつ減らすため」という表現を使っています。なぜならば、胃がんは、その発生がピロリ菌の感染のみに収斂されるほどシンプルながんではない と考えているからです。

堀江氏の言う '胃がん' とは、おそらくは限定された胃がん、すなわち内視鏡で切除適応となっている早期胃がん (分化度の高いサイズの小さなもの) がほとんどでしょう。それを調べたら、約99%にピロリ菌感染を認めたとする報告から引用されたのだと思います (Helicobacter 2011; 16: 415-419)。しかし、手術をしなくてはいけない胃がんや転移した胃がんまでも含めた、胃がん全体について漏れなく議論する場合、99%という数字は示さないはずです。

私の学位の研究テーマが、「炎症と胃がん発生、化学予防」でしたので、それなりにこの問題については勉強をしてきたつもりです。実際に、数多あるネズミを使った動物実際でも、ピロリ菌のみで胃がんが発生するモデルなんて見聞したことがありません (*もし存在していたら陳謝いたします)。必ず何らかの「発がん性物質」使用が前提とされています。

前ブログで示した子宮頸がんは、ヒトパピローマ・ウィルス (HPV) 感染をブロックできれば子宮頸がんは発生しません。B型肝炎ウィルス (HBV) 感染をブロックできれば、B型肝炎ウィルス由来の肝がんは発生しません。これらの場合、がん発生の原因は感染症だと言えます。したがって、ワクチン予防という概念も成立するわけです。

ところが、胃がんの場合はどうでしょうか。ピロリ菌をブロックしても胃がんは発生します。全体をみるとピロリ陰性の胃がんも少なくありません。この時点で、ピロリ菌が胃がんの '原因' だと言ってはいけないのではないでしょうか。

エビデンス・ベースの話になると、ピロリ陽性の早期胃がんを内視鏡的切除した後に、除菌をすることで、次新たに発生する胃がんを防ぐ効果は確かに証明されています (Lancet 2008; 372: 392-397)。しかし、これはあくまでもかなり限られた対象に対する話です。

では、われわれ健常人を対象にした場合はどうでしょうか。2,258人のピロリ陽性被検者を対象に、除菌 vs 非除菌 を比較したランダム化試験があります (J Natl Cancer Inst 2012; 104: 488-492)。15年間追跡した結果、除菌した1,130人のうち34人(3%)に胃がんが発見されました。一方で、非除菌の1,128人のうち52人(4.6%)に胃がんが発見されました。結果、除菌によって39%の胃がん発生リスク減につながったという報告です。翻ると、除菌予防効果はこのレベルの話だということです。そして、「むだ死に」とはいいますが、胃がん死亡率の比較でみると除菌による有用性は認められていません。

したがって、「胃がんの99%はピロリ菌が原因」は軽率な一般化だといえるでしょう。正確には、胃がんにピロリ菌感染が多く認められ、ピロリ菌は胃がん発生を惹起するための '相関関係' にあるとはいえますが、'因果関係' ではない というのが個人的見解です。もし、間違っていたらご指摘ください。

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『むだ死にしない技術』(著 堀江貴文+予防医療普及協会 マガジンハウス社) より

 

さて、堀江氏著作の中には、上の図を示しながら、「日本人のがんの1/4は感染症が原因」と結論付けられています。他に、喫煙、生活習慣 (食事、ストレス) も並んでいるわけですが、このように要因を明確に分けることは難しいと考えます。例えば、ピロリ陽性の胃がん患者が、ヘビースモーカーで、かつ生活スタイルが不摂生の日々だったとしたら、この場合、原因は「ピロリ菌」だと言えるでしょうか。

この1/4 (25%) という数字は、引用論文 (Proc Jpn Acad Ser B 2014; 7: 251-258) をみてみると、詳細に調査された疫学データではなくて、単に、年間新たに発生する日本人の子宮頸がん(1.3%)+肝がん (6.5%)+胃がん (17%) 罹患数を足した数の全体に占める割合 (25%) を示しているにすぎません。いつから胃がんの原因が感染症という話になったのでしょうか。全胃がんの原因が感染症であることが前提となっている時点でこのデータは恣意的で信頼に値しません。論文著者はもう少し具体的に説明するべきです。

ちなみに、肝がんは、肝細胞がんと肝内胆管がんに分けられます。肝細胞がんの中には、アルコール性や非B非C型、あるいは脂肪肝から発生したウィルス由来とはまったく異なるものも少なくありません。

以上より、「日本人のがん1/4は感染症が原因」 と言い切ってしまうのは適切ではないというのが個人的見解です。

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『インベスターZ』 (三田紀房 モーニング 2017年 No.4・5 号掲載  講談社) より

 

さて、冒頭に戻ります。今回の『インベスターZ』は、はっきり申し上げて「重粒子線治療」のPRとなっているわけですが、随所に誤った記載がみられます。いくらフィクションとはいえ、影響力の大きなメディアの一種であり、がん医療をテーマにする以上は著しく思慮を欠いた内容は問題だと最初に申し上げておきます。

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『インベスターZ』 (三田紀房 モーニング 2017年 No.4・5 号掲載  講談社) より

 

漫画に登場するホリエモン氏曰く、重粒子線治療が「身体の負担を減らして治す治療」とありますが、いったい何のがんで、どのような状況に対し、どれほどの確度で治るのか をもう少し具体的に議論すべきでしょう。なんとなく、がん→重粒子線治療→治る、というフワフワした結論付けは乱暴です。

ホリエモン氏の話を聞いた登場人物のセリフに「重粒子線ガン治療でガンを消してしまえば抗ガン剤は使用しなくて済む」とありますが、抗がん剤治療が必要な対象と、重粒子線治療で治せるかもしれない対象はまったく異なります。基本的に、全身治療である抗がん剤が必要ながんに重粒子線を使用しても、がんは治りません。なぜならば、重粒子線治療は手術と同様に '局所' 治療だからです。ですから、重粒子線 vs 抗がん剤の対立構造はナンセンスだといえます。

がんが治るという確認は、患者さんを長年追跡をして初めて言えることです。がんは、一時のパフォーマンスの成功のみで「治る」が語られるほど甘くはありません。

 

登場人物はさらに以下のように続けます。

「厚生労働省のPRの仕方がヘタなんだよ」

「いまはなんだか・・・こっそり隠してるカンジがする そうじゃなくって・・・」

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 『インベスターZ』 (三田紀房 モーニング 2017年 No.4・5 号掲載  講談社) より

 

厚生労働省のPRがヘタで国民に対して隠している?

この漫画では、重粒子線治療が抗がん剤治療や手術を凌駕する、まるで「万能治療」のように扱われているわけですが、あくまでも従来の放射線治療の代替治療というのが基本的な位置付けです。しかし実際のところ、進歩した放射線治療を上回るほどの確固たるデータは、国内外のどこにも存在しません。だからこそ厚生労働省は、重粒子線治療を「先進医療」というテスト治療として認める代わりに客観性に耐えうるデータを収集しなさい、としているわけです。

それにもかかわらず、すでに重粒子線治療を「ビジネス商品」としてとらえる立場にある医師や、彼らたちを従える経営者の中には、手術や抗がん剤のリスクを誇大に煽ることで、「切らずに治す」「身体にやさしい治療」という甘言メッセージを巧みに世に送りながら、うまく重粒子線治療に誘導する不健全なやり方が横行しています。

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『インベスターZ』 (三田紀房 モーニング 2017年 No.4・5 号掲載  講談社) より

 

重粒子線治療を選択する場合には、暫定治療であるため適応条件がしっかり定められ、一定のルールに基づいて行われなくてはいけません。

さらには外科医、腫瘍内科医、緩和ケア医など、プロフェッショナルな多職種の連携のもと、経営よりも患者さんの利益を最優先に全体の中で治療自体が語られるべきです。

にもかかわらず、放射線治療医のみが主役となって、手術や抗がん剤のリスクを煽り、重粒子線治療がまるで〝魔法の杖〟のように宣伝することで集客活動に勤しむふるまいには、気を付けたほうがよいでしょう。

この漫画の医学監修として山形大学の放射線科教授の名が記されています。たとえ漫画とはいえ、ある立場をとられる方の偏った意見のみが、まるでファクトのごとく扱われているのは由々しき問題です。

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『インベスターZ』 (三田紀房 モーニング 2017年 No.4・5 号掲載  講談社) より

 

一挙手一投足が話題になるほど強い影響力をもつ堀江氏が、予防医学の啓蒙活動に寄与されるのはとても素晴らしいことだと評価します。しかしだからこそ、がん医療について語るときは、情報のつまみ食いのみで軽率な一般化をされるのではなく、他のどの分野の事柄よりもフェアで正確な情報発信に努めていただきたいと願います。

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

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  • 作者: 大場大
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2016/11/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)