大場大のブログ "セカンドオピニオン"

がん治療専門医による、個人的な「つぶやき」ブログ

小林麻央さんのプライバシーを売った医師に告ぐ

進行乳がんのため闘病中であった小林麻央さんの訃報が流れ、多くの方がまだ悲しみに暮れている最中でしょう。病気が公になって以来、日々のブログから届く麻央さんの声や言葉が、多くの人たちの共感を呼びました。また、がんという病気と日々向き合っている、スポットライトを浴びることもない多くの患者さんたちにとっても大きな勇気や希望となっていたはずです。

  結果的に治ることが難しいがんを背負いながらも、愛する夫、子供、家族のために、1日でも長く、自分らしく生きたいと希望する営為の数々。麻央さんは、自らの病気を通して「生きる」ことの本当の素晴しさを私たちに教えてくださいました。謹んで、心からご冥福をお祈り申し上げます。

  さて、昨年の10月に、あるクリニックのホームページ掲示板に以下のブログ記事が掲載されました。当時、まだ麻央さんが闘病中であったにもかかわらずです。現在は削除されていますが、アーカイブは削除されないままとなっています。

http://archive.fo/ng5tB 

以下、部分的に抜粋します。再度、掘り起こしてしまう行為が、関係者の皆さまに対して不謹慎である事をお許しください。

 

2014年2月に P 人間ドックにて、左に乳がんを認め、港区のT病院に精密検査目的で紹介され、当時、乳腺外科部長が診療し、乳瘤と判断。その理由は病変が大き過ぎたとのことです。ブログでは2名の専門医での診断と記載されてるので、K 部長と女医の T 先生の診断だと思います。良性にも関わらず、念の為に半年後の経過観察を指示されます。ご本人は2か月遅れ受診、エコーで腋窩リンパ節の転移が多数見られ、乳がんを乳瘤と誤診していたことにこの二名の医師が気付き、T 先生が針生検をしたのでしょう。その結果、stage3 の乳がんを診断したと考えます。抗がん剤治療と手術を提案したが、同意は得られず、この病院を去られました。この間に女医の K 先生が最後は関わっていたと思われます。

(中略)

2016年に S 病院に乳がんが皮膚から飛び出て潰瘍化した通称『花咲き乳がん』という状態で受診され、肺転移、骨転移も併発してたのでしょう。緩和ケア科の適応となり、腫瘍内科との共同の治療をされ、根治という事は不可能なので、延命を目的とした抗がん剤治療をされたのでしょう。
 K 大学病院に転院され、最近になり、抗がん剤の効果があまりなくなりってきたと思われます。

(クリニックホームページ 『言いたい放題 乳腺外科コラム』 2016.10.03 (Mon) No.2284 より)


ブログ発信者は、このクリニック院長であり、乳がん検診を専門とする医師 富永祐司 氏です。麻央さんの乳がん報道の絡みで、メディアにも頻繁に登場している方のようです。これを読んで、良識のある方は違和感を覚えたはず。なぜこのようにベラベラと喋れるのでしょうか。

医師のプロフェッショナリズムとして、絶対に守らなくてはいけない '守秘義務' というものがあるわけですが、富永氏は明らかにそれに反しているようにみえます。以下のように刑法でも規定されています。

 

医師の守秘義務は、倫理上の義務としてのみでなく、法的義務としても問題になる。わが国において医師の守秘義務違反については、プライバシー侵害等の不法行為に該当するか否かをめぐり、民事上の責任が問われることもあるが、明文でこの問題をとり上げているのは刑法の次の規定である。

刑法134条(秘密漏示)第1項
「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産婦、・・・の職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」

(日本医師会ホームページ 「医師の守秘義務について」より一部抜粋)

 医の倫理の基礎知識|医師のみなさまへ|医師のみなさまへ|公益社団法人日本医師会

 

かつて、近藤誠氏が、セカンドオピニオンを受けた川島なお美さんの個人情報を、本人の承諾もなく『文藝春秋』(2015年11月号) に曝露したことが大きな問題となりました。
著名人が病気になると、それが「がん」ならば、なおさら世間は詳しく情報を知りたいという欲求にかられるのでしょう。そしてメディアもそれに応えようと、必死に情報を先取りして獲得ようとする。ワイドショー的な報道に終始する、そのような需要と供給の関係性は仕方ないのかもしれません。しかしそれらとは独立して、医師には遵守すべき倫理・モラルがあることを忘れてはなりません。

  6月29日に発売された『週刊新潮』(7月6日号) で小林麻央さんの病歴に関するセンセーショナルな記事が掲載されました。かく言う私も客観的なコメントを求められたのですが、記事を見るとそこにはかなり具体的かつ詳細な情報が明らかにされていました。情報の出処は一体どこだったのでしょうか。

  ここで、富永氏のブログの話に戻ります。今回の『週刊新潮』記事の内容がすべて事実だとするならば、ブログで先行して登場してきたイニシャルと照らし合わせてみると、ほぼ一致していることがわかります。

具体的には


・P人間ドック→ PL東京健康管理センター人間ドック
・T 病院→ 虎の門病院
・S 病院→ 聖路加国際病院
・K 大学病院→ 慶應義塾大学病院

 

虎の門病院の「K 部長と女医の T 先生」といえば、われわれの業界ではすぐに、誰であるのかは察しがつきます。なぜ個人を特定するような表現をされたのでしょうか。当時、ブログの影響のためか写真週刊誌が上記 K 部長と T 医師を「誤診した医師」だとレッテルを貼り、まるで悪者のように追いかけまわした記事がありました (週刊 FLASH 2016年11月1日号)。

小林麻央を「ステージ4」に追い込んだ2人の医師を直撃! | Smart FLASH[光文社週刊誌]スマフラ/スマートフラッシュ

  振り返ってあれこれ物申すのが問題であることはわかったうえで、当時、麻央さんは、正確な診断を困難にさせる授乳中という背景があったかと思います。虎の門病院の医師たちは麻央さんが背負う様々なリスクを加味しながら、慎重な臨床的判断をされたはず。実際、授乳期間から離れる半年後には、また再検査を受けるようにも伝えていました。「誤診」というからには相当な状況証拠を示さなければなりません。

  富永氏のブログには次の文言が朱字で強調されていました。

「一番患者様が気にされている M 浦先生はこの件には一切関わりはありません。 小林麻央さんの件自体も知らされてなかったのでご安心下さい。 その証明にここの関連の医師を明確にしました。」

  初めて読んだ方は、いったい何の話かと思います。調べてみると、この M 浦医師とはかつて虎の門病院に所属し、富永氏のクリニックにも当時、深く関わっていたようです。それでは、虎の門病院の内部事情をなぜ、何の関わりもないはずの富永氏が詳細に把握することができたのか。
  推察するに、部長職争いで虎の門病院を退き、現在、赤坂で開業されている M 浦氏が知り得た情報を富永氏と共有していたのではと考えるのがごく自然です。そして、虎の門病院のやり取りのみならず、聖路加国際病院と慶應義塾大学病院での具体的な話までもオープンにされています。そのような情報を一体どこから収集してきたのか。万が一知り得たとしても、麻央さんの個人情報を、イニシャルとはいえ平然で公にしてしまうのは、医師として信じ難い行為だと言えます。

  富永氏のクリニックは、乳がん検診としては非常に名の知れた施設のようです。また、国内で高名な乳がん専門医の方たちとも盛んに交流し支持されているようです。しかし、いくら素晴らしい業績やスキルを持ち合わせていたとしても、それ以前に、医師としてのプロフェッショナリズムに疑念を抱かざるをえません。このような医師のふるまいが、結果的に誠実な医療や医師への不信を招き、標準治療に背を向けてしまう原因にもなってしまうのかもしれません。

最後に富永氏に問います。

本来知られたくなかった麻央さんの個人情報やプライバシーを、メディアに垂れ流し続けた張本人はあなたではないのですか?

エゴのために悪質な守秘義務違反を繰り返してきた、そのように疑われても仕方がありません。反論がおありならば、ぜひ受けて立ちます。

 

 

大場先生、がん治療の本当の話を教えてください

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