大場大のブログ "セカンドオピニオン"

がん治療専門医による、個人的な「つぶやき」ブログ

東京ミッドタウンクリニックへの質問状 (全文)

久しぶりの投稿となります。本庶佑先生のノーベル生理学・医学賞受賞に乗じて、がん患者さんから大切なお金と時間だけを奪うインチキ免疫療法の声も同時に盛んになっています。

そのような現状、『FLASH』(光文社) で、写真週刊誌だからこそ可能なインチキクリニックの見極め記事が掲載されました。

https://smart-flash.jp/lifemoney/56950?sp

しかしこれは、あくまでもホームページ広告の観点から示されたものに過ぎず、インチキ自体を規制できる法整備がないこの国では、何が問題であるかを、一つひとつ糺していかなければなりません。

本ブログでは、『FLASH』企画の後半記事で掲載された “公開質問状” について取り上げてみたいと思います。

https://smart-flash.jp/lifemoney/58133?sp

これは、出版社を通じて六本木にある東京ミッドタウン先端医療研究所の所長 田口淳一医師 (東京ミッドタウンクリニック院長) 宛てに質問状を送り、得られた回答内容の一部が記事化されたものです。ちなみに、詐欺的営為として認知されている、瀬田クリニックやいろいろ問題の多い株式会社テラの直営であったセレンクリニックなどの大手施設、メディアで高名な中村祐輔氏 は取材拒否だったと聞いています。実は、田口医師サイドからの回答に対する再質問状も用意していたのですが、紙面が限られていてほとんどの内容はボツとなってしまいました。

したがって、本ブログでは記事に至らなかった詳細を掲載します。このやり取りを通じて、一人でも多くの方に、詐欺的な医療ビジネスとは何かを考える契機となってほしいです。

 

(以下、全文掲載)

・質問①

貴施設での代表的治療に「樹状細胞ワクチン療法」とありますが、ホームページをみますと、「大阪大学大学院杉山教授が開発したがん抗原『WT1特許技術』を採用している」とあり、それは「当施設が技術提供を受けるテラ株式会社が独占実施権を保有」する治療ということになります。要するに貴クリニックで行われている治療は (株)テラ (以下、テラ社) と提携している多くのクリニックと同じなのでしょうか?

【東京ミッドタウンクリニック回答】

テラが技術提供する樹状細胞ワクチン療法は当施設がご提供する数ある免疫療法の一つですが、患者様お一人お一人に合わせた免疫療法をご提案しています。しかし、患者様に最適な治療をお受けいただくため、当施設では、標準治療(手術・放射線治療・化学療法)を受けることができる方には、主治医の先生のもとで必ず標準療法を受けていただくようにご本人にお伝えしています。がんに有効、あるいは症状を抑えるという科学的根拠(エビデンス)が存在する治療法である標準治療を優先してお勧めいたします。

しかしながら、標準療法に加えて「出来ることを積極的に取り入れたい」「治療法がない」と悩んでいる患者様がいらっしゃるのも事実です。私たちはそのようながん患者様に対し、がん免疫療法という選択肢をご提案しています。患者様お一人お一人にとって最適な治療を受けられることが何より大切ですので、例えば放射線療法が向いている方には放射線治療をご紹介しますし、痛みを緩和したい方にはそのための治療法や施設をご紹介し、当施設での治療に限らず、治療の選択肢をご紹介するよう努めています。

 

《回答に対する再質問》

テラ社が提供する「WT1ペプチド」を使用した樹状細胞ワクチン療法が、貴クリニック治療の主軸であると理解しています。その「WT1ペプチド」が、がん治療薬として使えるかどうか、その有効性についての根拠はまだ薄弱であるはずです。ちなみに、すべての患者さんに対して「WT1」の発現は測定されていますでしょうか?

そのほかにも実施されている「活性化リンパ球(LAK)療法」や「ナチュラルキラー細胞(NK)療法」に関しては、1980年代からすでに試みられてきた旧世代の治療であり、有効性は今だに証明されていません。安全性の面においても、本当にリンパ球が活性化しているのであれば、自己免疫性疾患に似た副作用が問題になってもおかしくありません。

然るに、それらの有効性を検証しようとする真摯な姿勢もないまま、「先端医療」を謳いながら、わずか一回の投与で患者さんから200万円~300万円以上も徴収するのは倫理的にいかがなものでしょうか。もはや、医療の営為ではなく、単なるビジネス目的のそれに映ります。

「患者様お一人お一人に合わせた免疫療法」

「最適な治療」

とありますが、有効性を論じることが不可であるにも関わらず、具体的にどのようなインフォームドコンセントをされているのでしょうか?

さらに、もし「WT1」の発現を測定されているのであれば、発現のないがん患者さんにはどのような説明をされているのでしょうか?

 

・質問②

前記の樹状細胞ワクチン療法のみならず、NK細胞療法、活性化リンパ球療法などの細胞療法も貴クリニックで広く実施しておられますが、それぞれの治療は異なるものだという専門医の指摘があります。それぞれの細胞療法の単独ならびに併用した場合の有効性を示す臨床データをお持ちでしたら、お示しいただけませんでしょうか?

 【東京ミッドタウンクリニック回答】

免疫療法のデータは蓄積段階です。治療効果は過去の論文データでおおよそ推測できますが患者様のご年齢や体力、症状によって変わってきますので、蓄積段階のデータの公開は行っていません。

 

・質問③

貴クリニックで行われているがん免疫細胞療法の治療成績を、各がん種ごとに、具体的にお示しいただけませんでしょうか? また、そのデータは、細胞療法単独での成績なのか、標準治療も併用した成績なのか、どの治療設定で行われたものなのか、教えてください。

 【東京ミッドタウンクリニック回答】

治療データは蓄積段階にありますが、公開はしておりません。治療成績は過去の論文データでおおよそ推測できますが、患者様のご年齢や体力、症状によって変わってきますので、免疫療法の効果を示すデータとはならないからです。例えば一般論として何割と具体的な数値を示したとしても、それが今後の治療にも当てはまるものではありません。今後治療をする患者様の条件によって異なります。

 

《回答について再質問》

貴クリニックの免疫細胞療法の主軸が、テラ社が提供する「WT1ペプチド」を使用した樹状細胞ワクチン療法だとした場合、テラ社のホームページ (現在) には、これまでに12,000 例近くの症例実績があると宣伝されています。そのうち、膵がん患者をみると2,500 例近くも症例数が重ねられているようです。もしそれらが本当ならば、一体なぜ、誰もが納得できる客観的データを出し得ないのでしょうか。

「治療データは蓄積段階」ということは、貴クリニックの免疫細胞療法は、現状、「海のものとも山のものともつかない」ことを意味します。何年たってもデータは蓄積中、言い換えると、目標のない「人体実験中」とみなされます。そうであるにもかかわらず、多くの他がん種の患者にまで治療対象を拡大し、高額な治療費を患者さんに支払わせている貴クリニックの倫理指針をお聞かせくださいませんか?

さて、前の回答から、貴クリニックでのがん免疫細胞療法の対象について、

⑴ 標準療法に加えて「出来ることを積極的に取り入れたい」患者様

⑵「治療法がない」と悩んでいる患者様

ということがわかりました。

⑴ について、貴ホームページでは「相乗効果が期待でき、副作用を抑えて治療することが可能です」とされていますが、貴クリニックの客観的データを出せないということは、本当に「相乗効果」があるかどうかわからないということです。

また、他の「活性化リンパ球(LAK)療法」や「ナチュラルキラー細胞(NK)療法」については、本当であれば付加的な副作用も懸念されます。「副作用を抑えて治療する」根拠はどこにあるのでしょうか?

⑵ について、標準治療の影響がない対象のはずですから、すぐにでも貴クリニックの治療成績データは出せるかと存じます。

「過去の論文データ」が何を指しているのか不明ですが、要するに、患者さんの転帰がどうなったのかをしっかり追跡していないので、生存成績を出すことができないという意味でしょうか。

生存成績データを示さずに、貴クリニック治療の有効性を語る理由をお聞かせください。

 

・質問③

貴ホームページでは「治療は自由診療のため全額自己負担となります」とありますが、標準治療や緩和ケアなどは一切行っていないのでしょうか? 症状や苦痛を訴えた患者さんに対して、どのような対応を取っていますか? 効果がなかった事に対する苦情やトラブルはこれまでありませんでしたか?

 【東京ミッドタウンクリニック回答】

当施設では、標準治療では治療が困難になった再発・転移がんの方への治療を中心に行っています。標準治療を受けられる施設は全国区にあり、お近くのがん治療拠点病院等で受けていただくほうが遠方から来ていただくご負担等を考えますと望ましいと考えるからです。

緩和ケアにつきましても、主治医の先生のもとでの緩和ケアをお勧めしています。緩和ケアの治療法の提示がないとおっしゃる患者様に対しては、放射線治療で緩和ケアをできる施設や、腹水ケアのできる施設、在宅緩和ケアのできる医療機関などをご紹介しています。

免疫療法を受けられる患者様には、標準治療が優先であることやエビデンス構築段階の治療であることをお話し、ご納得いただいた方に治療をお受けいただいています。

 

《回答について再質問》

根拠がない、本当に治療として成り立っているのかどうかも不明な免疫細胞療法と組み合わせることで、本来の標準治療効果が減じたり、新たな副作用リスクが問題になる可能性について先にも述べました。

 貴ホームページ上に「大学病院や専門医療機関と密接に連携」とありますが、実際の現場にいる専門医師たちに聞くと、「密接な連携」はないという意見が圧倒的でした。 患者さんが希望するので止む無く紹介状を書いている医師も少なくないようです。それほど貴施設ががん治療専門医に信用されていないのはなぜだと思われますか?

 

・質問④

  田口所長は東京大学医学部を卒業後、総合内科専門医(循環器内科医)として宮内庁侍従職侍医などの経歴をお持ちで、「がん治療分野における研究も多数」と自己紹介されていますが、「がん治療分野における研究」の実績について、具体的に伺えませんでしょうか?加えまして、東京ミッドタウンクリニックに赴任されるまでの、がん患者診療実績、ならびに標準的な薬物治療の経験数などをご教示ください。田口医師のほかの常勤医師についても、同様にご回答ください。

 【東京ミッドタウンクリニック回答】

田口医師は総合内科専門医、臨床遺伝専門医でもあります。総合内科医師としてがん患者様を担当してきています。下記は田口医師の研究論文の一例です。

Peptide-pulsed dendritic cell vaccine in combination with carboplatin and paclitaxel chemotherapy for stage IV melanoma. Melanoma Res. 2017

相談や治療はチームとして行っており、外科専門医として豊富ながん治療経験のある草野敏臣医師や複数のがん治療経験の豊富な医師が当施設でがん相談および免疫療法を行っています。

 

《回答について再質問》

貴クリニックでは標準治療を行っていないということを理解しました。 個人的には、総合内科医 (循環器専門医) が、がん患者さんに対して、特殊ながん免疫細胞療法を実施することに大きな違和感があります。

 一方で、がん免疫細胞療法を実施する上で、培養細胞の精度管理や品質保証を担保するために、貴施設内ではどのようなチェック体制がなされているのでしょうか?

貴クリニックには「先端医療研究所」と仰々しい冠が付されていますが、細胞療法のスペシャリスト、あるいはそれに相当する基礎研究者は常駐しているのでしょうか?

 例えば、貴ホームページにある自己がん組織樹状細胞ワクチン療法(1クール:195万円)は、かなり高度な研究技術を要するものと個人的に理解しています。本治療が本当に貴クリニックで実施されている場合、どのようなレベルの担当者が、どのような精度管理のもとで実施されているのでしょうか?

 いち業績としてあげていただいた論文について、田口医師は共著者のひとりだと理解しました。これの内容は、悪性黒色腫(メラノーマ)患者 9 例の安全性評価のみを示したもので、テラ社がスポンサーとなっている論文であると留意しています。田口医師の「がん治療分野における研究も多数」について、上記以外にありますでしょうか?

「外科専門医として豊富ながん治療経験のある草野敏臣医師や複数のがん治療経験の豊富な医師が当施設でがん相談および免疫療法を行っています。」 とありますが、「外科医として豊富ながん治療経験を有している医師」だからこそ、なぜ根拠のない免疫細胞療法を、あたかも効果があるかのように吹聴しながら高額な費用を要求して治療ができてしまうのか理解に苦しみます。

まともな医学教育を受けている医師であれば、「医療倫理を全く理解していない、営利目的のふるまい」と勘違いをされるような営為は通常行えないと考えます。

 

他にも重大な問題を指摘させてください。

田口医師は、「一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク」で代表理事をされています。非営利をうたい文句とされているようですが、ほか理事メンバーは全員、医療法人社団ミッドタウンクリニックの役員です。

貴施設ともリンクしている当社団法人URLは

https://sp.akiramenai-gan.com/about/

「akiramenai-gan」→「あきらめない-がん」は、がん患者さんの藁にもすがりたい心理をうまく利用し、あたかも治療選択肢を保証している誇大広告の可能性があります。

改正医療法では、間接的・暗示的な広告は規制されているかと思います。

当サイトに登場する医師陣は、テラ社と提携している病院、クリニック医師、あるいは テラ社となんらかの利害関係のある人たちがほとんどです。これは明らかに、テラ社商品 (樹状細胞ワクチン療法) を扱っている施設、あるいはミッドタウンクリニック・グループへの患者誘導になっているようにみえます。

すなわち「ステルスマーケティング」である疑義が生じますが、この点についてどのようにお考えでしょうか?

 

余談ではありますが、テラ社の最近のご事情はご承知かと存じますが、なにやら良からぬ噂が絶えないようです。そのような企業商品に、サイエンスとしての真理が宿るとは個人的には思えません。

テラ、第三者委員会の調査報告書を読んで……:日経バイオテクONLINE

http://outsiders-report.com/archives/1152